〈成長の未来図〉知で越える危機(4) ギフテッド封じる平等主義 異能が呼ぶ革新、果実に

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62427840Y2A700C2MM8000/

 

ベルギー生まれのローラン・シモンズ君(12)は高校までの課程を8歳で終わらせ、アントワープ大の修士課程に在籍している。現在は物理学専攻だが、数学や生物工学も学び、心臓病を患う祖父母のために人工臓器を開発するのが目標だという。

 

12歳で修士課程

シモンズ君のような突出した能力を持つ「ギフテッド」への教育が盛んな国は多い。2006年に米ネバダ州に設立された公立学校は「上位0.1%の才能の育成」を掲げ、才能と学習の困難を併せ持つ子へのプログラムを備える。

ごく一握りの天才に限らず、身近な才能を支える土壌もある。米国は18歳未満の大学入学者が毎年20万人前後いる。才能教育の対象や手法は国・地域によって異なるが、個々に適した育成方法を柔軟に模索してきた。

理解度に応じ「飛び級」を認めたり、進級を遅らせたりすることは珍しくない。18年の経済協力開発機構(OECD)の抽出調査によると、15歳時点で本来の同級生と一緒の学年に在籍していない子どもは米独仏などで2割を超える。

形式的な「平等」に重きを置く日本は、OECD調査で全員が同じ学年に在籍する。教育システムは等しく同じ内容、カリキュラムを受けられることを重視し個人がそれぞれの特性にあった学びを得にくい。松村暢隆関西大名誉教授(才能教育)は「適切な環境で才能を伸ばすことすら『差別を正当化する』とタブー視されてきた」と語る。

彼我の差は研究分野でも見て取れる。

文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた「サイエンスマップ2018」によると、国際的に注目される902の研究領域のうち、日本が引用数トップ1%に入る優れた論文を手掛けているのは30%。米国(85%)や英国(60%)を大きく下回る。新領域に挑むとがった研究者を大事にできていない。

 

年7億円超支援

 

変化の兆しもある。16年にソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が立ち上げた孫正義育英財団。10歳未満も含めて特定分野に秀でた300人近くを発掘。年間の支援総額は7億円を超える。

18年から支援を受ける工藤志昊さん(16)は、4歳から近所の公園に通って2000人以上の外国人観光客に話しかけ英語を学んだ。プログラム開発の国際的なコンテストでも上位入賞。「創造力が評価されない教育システムから飛び出したかった」として中学入学時にカナダの公立学校に留学し、課外活動で教員の業務を効率化するアプリの開発に取り組む。多様な分野を研究する他の財団生と刺激し合う。

才能があって学校になじめない子どもらを支援してきた東京大先端科学技術研究センターの中邑賢龍シニアリサーチフェローは「不寛容な社会を変えなければ、破壊的なイノベーションを担う異才は出てこない」と訴える。平等主義が人材育成の仕組みを硬直的にしていれば出る杭(くい)は伸びない。小中学校の頃から教室で授業を受けた経験はほとんどなく、自習と試験の繰り返しで進級した。「周りの理解があり、学校が柔軟だった」。大学院に入って半年で修士課程の全ての試験に通った。「ゴールは人間の寿命を延ばすこと」と語る。