太陽光パネル、戸建ても義務化 制度案に映る都の危機感 屋根から始まるTOKYO脱炭素(上)

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62412620X00C22A7L83000

 

東京都が脱炭素に向けて打ち出した設置義務化の制度案は、ネット上を中心に賛否両論の議論を巻き起こした。

 

比較的規模の大きい建物に設置を義務付けるケースは、これまでも京都市や群馬県などであったが、個人が購入する住宅まで対象とするのは全国で初めてのことだ。 

都が5月に公表した制度案は住宅を供給するマンションデベロッパーや住宅メーカーに設置義務を課す。住宅購入者の立場からみると、マンションや分譲住宅は太陽光パネルを設置済みの物件を買うことになる。注文住宅の場合はメーカーは設置義務を負うものの、建築主である個人の判断で設置しない選択もできる。

環境政策に詳しい東京大学の小林光客員教授は「自動車や家電と同様に、住宅も製品の供給者に環境規制をかける形で適切な判断だ」とみる。都は条例改正に向けた作業を進めており、周知期間も考慮すると最短でも2024年度の施行となる見通しだ。

都が太陽光義務化の網を戸建て住宅にまでかける背景には、30年までに00年比で温暖化ガスの排出量を半減する「カーボンハーフ」という政策目標の存在がある。19年度の都内の温暖化ガス排出量は00年度比微減にとどまる。期限まで残り8年を切るなか、都環境局は「既存政策の延長線上では到底なし得ない」と危機感を募らせる。

都はこれまでオフィスビルや商業施設などには二酸化炭素(CO2)の排出量削減などを求めていたものの、戸建て住宅に対しては補助金によって省エネ性能に優れた住宅の建設を促すなどの誘導策にとどめていた。

ところが、都内のCO2排出量の3割を占める家庭部門は削減どころか、19年間で26%も増加してしまった。省エネ家電に買い替えても、使用電力が化石燃料由来であれば削減効果は限られる。戸建て住宅まで広く太陽光パネルの設置を義務化することで、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーの普及を加速する狙いがある。

国は30年に新築戸建ての6割に太陽光パネルを載せる政策目標を掲げるが、義務化には至っていない。都と同様に脱炭素に取り組む自治体は、国に先行する都の動きに関心を寄せる。首都圏では川崎市が都の制度案などを参考に戸建て住宅を含めた太陽光パネルの設置義務化を検討しており、月内にも方針を示す考えだ。

都の制度案は都内で事業展開する戸建て住宅メーカーのうち、供給棟数の多い上位50社弱が対象で、年間3万4000棟ほどの新築戸建ての半数超をカバーするにとどまる。専門家のなかには「義務化にはほど遠い」と疑問視する向きもある。都は実効性を高めるため、義務化後の各社の達成状況を踏まえて対象企業を広げることも視野に入れる。

東京都が全ての新築建物に太陽光パネルの設置を義務付けようとしている。脱炭素推進とエネルギー自給率の向上を目指すが、住宅価格の上昇につながりかねないと懸念する声もある。設置義務を負う住宅メーカーは販売戦略の見直しを急ぐ。