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市場に刺さらぬ参議院選挙 「有権者は株主」韓国が先行

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD031US0T00C22A7000000

 

10日の投開票を控え、参院選が大詰めを迎えている。それなのに株式市場の話題にならないのはなぜか。世界の投資家に今刺さる政治家のメッセージは何か。

米証券大手モルガン・スタンレーでアジア株の投資戦略を立案するジョナサン・ガーナー氏は、日本株への強気に手応えを感じている。6月に3年ぶりに東京を訪れた際、調査に来た旧知の海外投資家と何人も出くわしたからだ。

「アベノミクス相場」が一服した2015年以降、日本株の売買の半分以上を占める外国人投資家は一貫して14兆円近くも売り越した。株価も、マネーが向かった先である米国に引き離された。

同氏が今強気なのは、ライバルの中国企業が「共同富裕」を掲げた政府の規制強化で収益力を落とし、割安な日本株に注目が集まると読むからだ。「外国人の買いはこれから」と期待する。

これに対し、選挙への関心はあっさりしたものだ。「誰が勝つかは日本人が決めること。今の政策が続けばそれでいい」という。

政治家、政策打ち出さず

票を得るために政治家が政策を競い合う選挙は、株式市場が活発になる機会だ。にもかかわらず市場が冷めているのは、政治家が投資家心理を刺激する政策を打ち出していないことの裏返しだ。票を持ってもいない投資家に気を使う余裕は政治家の側にもない。

政治家が、市場に映る自らの姿を見て政策を磨いていく。株式市場が持つこのような強みをフルに発揮するには、「有権者は株主」というかたちに持っていき、政治家が市場の声に耳を傾けざるを得なくする必要がある。

日本はこの点で、世帯の半数が株や株式投資信託などを保有する「投資家の国」の米国はもちろん、韓国にも先を越された。韓国の個人株主が急増しているのだ。

サムスン電子などの主要企業が該当する12月期決算の企業で見ると、株主は昨年末で1374万人と3年で2.5倍に膨らんだ。人口の4人に1人の計算だ。日本の個人株主は1400万人台で、9人に1人にとどまる。不動産価格の高騰で家を買えない不安に駆られた韓国の若い世代は、少額で買える株で資産をつくり始めた。

3月の大統領選も、異例の展開だった。各候補は動画投稿サイト「ユーチューブ」の投資家向けチャンネルで政策を訴え、再生回数は候補者合計で1千万回を超えた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏は、韓国で初めて株式市場が選んだ大統領といえる。

その後の株安は新政権に最初の試練をもたらした。総合株価指数(KOSPI)の今年の下落率は20%を超え、アジアの主要市場で最大だ。世界景気の失速という逆風を外需依存の経済がもろに受けた。市場では経済対策への期待が強まり、政権も支持をつなぎ留めるために静観が許されない。

先にちらつく「投資の鎖」

投資家の国になる芽は日本にもある。若年層が将来に不安を抱えているのも、それが投資家の裾野を広げるきっかけになり得るのも韓国と同じだ。19年に表面化した「老後2千万円問題」は、若年層の危機意識を一気に高めた。

考え方の激変を示す調査がある。野村総合研究所(NRI)の「生活者1万人アンケート」によると、25~29歳の回答者のうち、投資をしている人の比率が18年の6.5%から21年の17.9%に急増し、年上の世代に迫っている。

「投資はしていないが興味がある」との回答者も加えると、全体の49.4%に及ぶ。2人に1人が投資家か予備軍という意味だ。30歳代も合計54.9%と、3年前の42.2%から大きく増えた。

その先には「インベストメントチェーン(投資の鎖)」がちらつく。リスクが取れる若手のマネーが企業の成長投資を支え、株高で報われる好循環だ。

証券業界で存在感を高めるSBI証券は、このシナリオに懸けているかのようだ。格安手数料で若者をひき付け、グループも含めた口座数は800万以上と野村証券を上回る。22年3月期は新規株式公開(IPO)のほとんどの案件で株の引き受けに加わり、マネーを成長企業に誘導した。

世代のねじれ、解消必要

ガーナー氏が言うとおり、外国マネーの日本株への関心は中国のつまずきや割安感という消去法的な理由にとどまる。マネーが本格的に日本に来るには、投資の鎖をつくる工程表が欠かせない。

それを描くのが政治指導者の仕事だ。岸田文雄首相がニューヨークで9月に開く国連総会に出席するなら、世界のマネーが集まるウォール街の声を聞くべきだ。

日本の地盤沈下を痛感するだろう。投資家の関心は薄れ、日本の専門家の多くは市場を去った。だが処方箋は語り継がれる。4月に米証券を退社した日本担当エコノミストはこう言い残したという。「おじいさんが孫に無税で日本株を譲れるようにしてほしい」

金持ち優遇の批判がつきまとってきた策だ。だが2千兆円の個人金融資産の60%は投資リスクを取る必要があまりない60歳以上が握り、若い世代はリスクが取れるのにお金がない。ねじれを解消しなければ岸田氏が掲げる「貯蓄から投資へ」も絵に描いた餅となりかねず、政治家が市場という鏡を得て政策を鍛えることもない。

本社の世論調査によると、自民、公明両党は参院選で改選議席の過半数を得る。政権基盤が安定すれば、政策の自由度は高まる。岸田氏はどのようなリーダーシップを発揮するか。市場の視線はもう選挙の後に移っている。