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月面基地で循環型農業 大林組など、砂とふん尿を土壌化 Next Tech2050

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2079O0Q2A620C2000000

サイエンスフィクションに描かれそうな光景が2050年には現実になっているかもしれない。建設大手の大林組と名古屋大学発スタートアップのTOWING(トーイング、名古屋市)は月の砂を模した「模擬砂」と有機肥料を使った小松菜の栽培に成功した。ふん尿などを肥料に使う循環型農業を月で実現することにつながる成果だ。将来、月で暮らす人々の地産地消を支える。

 

サイエンスフィクションに描かれそうな光景が2050年には現実になっているかもしれない。建設大手の大林組と名古屋大学発スタートアップのTOWING(トーイング、名古屋市)は月の砂を模した「模擬砂」と有機肥料を使った小松菜の栽培に成功した。ふん尿などを肥料に使う循環型農業を月で実現することにつながる成果だ。将来、月で暮らす人々の地産地消を支える。

 

米航空宇宙局(NASA)が主導し宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参画する「アルテミス計画」は25年以降に月面への人類再着陸を目指す。月面に基地を築き、恒久的な活動も視野に入れる。

その際、地球から食料を継続的に輸送する方法はコスト負担が大きい。月面基地での農業を実現できれば滞在者の生活の質の向上やコスト軽減につながると期待される。閉鎖空間を作り野菜などを栽培する方法が検討されている。

ただ、技術的ハードルは高い。月の砂は粒子が細かく、地球の土のように植物を育てる栄養素はほとんど含まない。米フロリダ大学が22年、アポロ計画で持ち帰った月の砂を使った植物の発芽に成功したが、植物の成長に適しているとは言い難いとされる。

土壌や化学肥料を地球から月へ輸送する方法も考えられるがコストは莫大になる。そこで両社は月の砂をベースに、ふん尿や食事の残りなどの有機廃棄物を肥料とする土壌の開発を目指している。

今回開発した技術では月の砂を模した砂に水と炭素を練り込み、約1000度で加熱した。模擬砂中の炭素が気化することで直径0.1ミリメートルほどの穴が多数開いた多孔体ができる。この隙間が水分を含んだり、有機肥料を分解して栄養素にする微生物が住みついたりしやすい環境になる。この多孔体を基に有機肥料などを加えた土壌を開発し、小松菜の栽培に成功した。

大林組はJAXAなどと開発した月の砂をマイクロ波やレーザーで建材化する技術を提供した。トーイングは農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の技術を基に開発した、有機肥料を使う人工土壌栽培の知見を生かした。

今後は加える炭素の量などを変えることで、土壌の保水量を最適に調整したり、カロリーが高く主食になりえる芋などの根菜類を栽培したりできないかを探る考えだ。

宇宙以外の応用も期待される。大林組未来技術創造部の川上好弘担当部長は「砂漠の緑化や砂漠での農業に利用できるのではないか」と語る。

環境負荷の軽減にもつながりそうだ。化学肥料はリンやカリウムなどを原料とし、採掘や生産の環境負荷が大きい。ふん尿などを使う有機肥料なら負荷を軽くできる。

有機農業は一般に、土壌づくりに時間がかかり収穫までに10年ほどかかることもある。収穫量も化学肥料の5~7割にとどまることが多い。

これに対し、今回の土壌はトーイングの試験によると有機肥料の分解効率を従来比30倍以上に高められる。同社の西田宏平社長は「化学肥料と同等の栽培効率を実現できる」とみる。

まず地球で効果実証を

宇宙での農業はSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも今後注目が高まりそうだ。宇宙への進出は人類が持続可能な形で発展を続けるための手段の一つであり、その意味でSDGsの達成手段にもなりえるからだ。

日本航空宇宙学会(JSASS)が策定した、宇宙開発の未来像を示す「JSASS宇宙ビジョン2050」。その21年度版では、50年には国家や企業が運営する複数の月面基地が存在し、宇宙滞在者による社会が形成されるまでになると展望する。食料や水、空気の多くは月面基地の循環型システムで生み出される。月由来の資源を活用することで、地球からのわずかな物資だけで自給自足できるようになると想定されている。

こうした未来を可能にする宇宙技術の中には、地球でのSDGsに貢献できるものも多い。大林組やトーイングが今回開発した人工土壌はまさにそうした技術の一つだ。農業が可能な地域を広げるとともに環境負荷も下げられる。

数十年先を見据えた宇宙分野の研究開発は予算削減やプロジェクト中止のリスクも大きい。技術を宇宙へ届ける前に、まずは地球でその効果を実証し社会実装してみせる。そのことが宇宙開発そのものを持続可能にする手段にもなるだろう。

(松元則雄)