変わるNISA、現制度「駆け込み投資」のポイントは?

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駆け込みで現行のNISAを始める場合はどんな注意点があるのか。また、岸田政権が掲げるNISA制度の拡充により、制度が変わっていく可能性もある。NISAの今後をにらみ、資産形成とどう向き合うべきか考えよう。

 

東京都在住の山西ひろきさん(39歳、仮名)は2021年に一般NISA口座を開設したものの、毎月5万円の投資信託の積み立てのみを続けてきた。「残ったNISA枠を使うにしても、個別銘柄はこれと思うものが見つけられなかった。最近下がってきた米国株を買おうかと検討している」と話す。

個別銘柄にも投資し、配当などへの非課税の恩恵を受けたいと考える人は、一般NISAを最大限活用したいところだ。すでにNISAを使って投資している人や、これから始めようと思っている人は、今後の制度変更について頭に入れておこう。

22年に一般NISA口座を開設した場合、新規投資の上限120万円分は5年間、非課税で運用できる。27年からは課税口座に払い出すか、売却するか、新NISAへ移管(ロールオーバー)するといった選択肢がある。

現行の一般NISAから新NISAは、いくつかの変更点がある。一つは1階の積み立て枠と2階の投資枠の「2階建て」になることだ。年間投資枠は1階20万円、2階102万円で、投資枠は現行より2万円増える。

1階部分はつみたてNISAの対象商品を積み立てのみで購入できる。2階部分はこれまで通り上場株式や上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)、投信などを一括購入や積み立てで購入できる。ただしレバレッジを効かせている投信や、整理銘柄・監理銘柄に指定されている上場株は対象外だ。

投資する順番は決まっており、原則1階の積み立て枠を少しでも使わないと、2階を使った投資はできない。例外もあり、一般NISAの口座開設者や投資経験のある人は事前に証券会社などに届け出れば2階だけを利用することもできる。主に個別株での運用を考えている人は、新NISAが始まるまでに一般NISAを始めておけば選択肢が増えることになる。

ただし、その場合は2階で投資できるのは個別株のみ。また、1階を使わないからといって2階の投資枠が増えるわけではないので注意が必要だ。

新旧制度「はしご」で10年間の非課税運用

一般NISAから新NISAへのロールオーバーはやや複雑だ。3パターンに分けてみてよう。パターン①は非課税期間が終わったときの残高が102万円より少ない場合。移管先の残高は2階から順番に枠を消費する。例えば90万円ロールオーバーするならば、残った2階の12万円と、1階の20万円がその年に新規投資できる枠になる。

パターン②は102万円を超えてロールオーバーする場合。例えば105万円を移管したら、2階の枠に加え、1階分を3万円消費するので、残った17万円の枠で積み立てのみできる。

パターン③は含み益が出て資産が122万円を超えている場合。この場合は仮に200万円になっていたとしても青天井で移管できる。ただし、その年の新規投資はできない。

新NISAで対象商品から除外されるレバレッジ型の投信などはロールオーバーできない。まだ具体的なリストは公表されていないが、新NISAへのロールオーバーを検討している場合は、一般NISAでレバレッジ型の商品などへの投資は控えておく必要がある。

またさらに先の話として、新NISAの非課税期間5年が終わると、1階のみ、つみたてNISAにロールオーバーできる。2階部分の移管先が29年以降どうなるかは現段階では決まっていない。個別株に投資をしつつ、長期で投信の非課税運用もしたい人は移管するときに1階の積み立て枠も残しておきたいところだ。

個別株を買う場合、NISAの最大限の活用はなんと言っても「できるだけ長く持てる株を買う」ことだ。ところが、実際は含み益が出るとすぐに売ってしまう人が多い。20年の一般NISAの売却額は年末時点の残高の39.5%に達した。

また、損失がでても他の課税口座との損益通算ができない。ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子氏は銘柄選びについて「『いい会社』というだけでなく、高値づかみにならないよう理論株価よりもかなり割安な水準で買うなど、時期を見極める必要がある」と指摘する。非課税投資枠を消費するために銘柄を選ぶのではなく、自身の運用方針に合う銘柄のなかで、割安と思える株を買うようにしたいところだ。

恒久化求める声、岸田首相も制度拡充に意欲

NISAを巡っては、制度の拡充が期待されている。また、仕組みが分かりづらいことやロールオーバーなどの手続きが煩雑なことから、制度の簡素化や使い勝手の向上を求める声は多い。年末には具体的な変化が見えてくる可能性がある。議論のポイントを整理しておこう。

岸田文雄首相は「資産所得倍増プラン」を掲げている。政府の新しい資本主義実現会議が5月にまとめた実行計画案では、「個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべくNISAの抜本的な改革を検討する」とした。具体策の議論はこれからで、22年末に公表される税制改正大綱に盛り込まれるとみられる。

業界団体などからは様々な要望が出ている。日本証券業協会は、政府の掲げる資産所得倍増プランについて7月末をめどに具体策の提言を公表する考えだ。制度の恒久化や投資枠の拡大など複数のテーマを設定し、各テーマについて証券会社から意見を募り提言をとりまとめる。

投資枠拡大に期待感、使い勝手に課題も

制度の恒久化や投資枠の拡大の可能性について、参考になるのが海外の制度だ。NISAは英国で運用されている個人貯蓄口座(ISA)を参考に始まった。非課税枠の上限は、英ISAが年間2万ポンド(約330万円)なのに対して、一般NISAは120万円と見劣りする。いきなり300万円に拡大とまではいかずとも「非課税枠が倍増するだけでもインパクトは大きい」(りそなアセットマネジメントの未来資産形成ラボの南川久所長)と投資枠拡大へ期待の声は多い。

また、日本は制度の存続期間に限りがあることが投資先選びにも大きく影響している。一般NISAについては2024年に新NISAに受け継がれたのち、29年以降の制度は現段階で決まっていない。「もしかすると数年後に課税口座に払い出さなければならない状況で、個別の銘柄選びは難しい」(ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子氏)のが事実だ。

せめて制度の恒久化だけでも決まれば、ロールオーバーし続ければ非課税で運用を続けることができ、長期視点で個別銘柄に向き合う投資家が増えることも期待できる。さらに、非課税期間も英ISAのように恒久化されることになれば、非課税の恩恵が大きくなることはもちろん、ロールオーバーの必要もなくなり、NISAの使い勝手が飛躍的に向上する。

つみたてNISA活用も一手

現段階では、投信の積み立てで資産形成をしたい場合、一般NISAを活用するよりも、つみたてNISAに分があると言わざるをえない。つみたてNISAは42年まで制度が継続すると決まっているうえ、20年間ロールオーバーなどの手続きも不要で運用できるからだ。

つみたてNISAは対象の商品が限られているものの、投資枠については長期でみると一般NISAにも見劣りしない。年間の上限は40万円と小さいが、20年で800万円の非課税枠を利用できる。

実際に一般NISAを使っている人の多くは個別株に投資している。一般NISAの21年9月までの商品別買い付け額(累計)をみると、4割が上場株式、投信が55%、上場投資信託(ETF)は2%、不動産投資信託(REIT)は約1%となっている。それだけに、本来は個別銘柄に投資しやすい制度設計が求められる。

年末には岸田政権のNISA拡充の具体策が見えてくる。仮に制度や非課税期間の恒久化、投資枠の拡大などが実現すれば、銘柄選びにも影響する。NISAで個別銘柄に投資をするか迷っている人は、今後の制度がはっきりするまで待つのも手だ。