Web3は日本の好機になり得る 巨大IT支配崩す可能性

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK272AR0X20C22A6000000

 

6月中旬、ビル・ゲイツ氏の発言が話題になった。デジタルアート作品の「オリジナル所有証」として高値で取引されるNFT(非代替性トークン)やビットコインなどの暗号資産について、「誰かがもっと高値で買ってくれる、という愚かな仮定の上に全てが成り立っている」と切って捨てたのだ。

確かにビットコイン価格は半年あまりで約7割下げて2万ドル(約270万円)前後になり、アート系NFTの価格も急落した。米ドルと等価を保つはずだった暗号資産「テラUSD」は5月以降、あっという間にほぼ無価値になった。当然、ゲイツ氏のような懐疑派の声は大きく響く。

しかし、「Web3」と呼ばれる、NFT、暗号資産、その基盤技術の分散型台帳(ブロックチェーン)を駆使した新しいウェブの活用形態への社会の注目はむしろ高まっている。有力ベンチャーキャピタルの米アンドリーセン・ホロウィッツが5月に募集を締め切ったWeb3向け新ファンドには、45億ドルも集まった。投機バブルとは別の潮流が勢いを増しているのだ。

原動力はWeb3の「分散型」統治だ。広まれば巨大IT(情報技術)企業がネット利用者のあらゆる行為の管理者、支配者となった今の「ウェブ2.0」の集権構造を崩しうる。

Web3分野の代表的なエンゼル投資家、ヤット・シュー氏は、「ウェブ2.0では利用者が生み出すデータは全て巨大IT企業のものになり、タダで彼らの収益と支配力の源泉になる」と指摘する。「Web3では利用者も事業者であり、受益者だ」

たとえばWeb3型事業の典型的な運営形態になりつつあるDAO(分散型自律組織)。プロジェクト単位で人々が知恵、資金、労働、そして「利用」を出し合って事業を育て、収益を分配する仕組みで、集中管理者のいないブロックチェーン上にプログラムとして記述する。「トークン」と呼ばれるプログラムが意思決定の「投票券」や収益分配の「受益券」となり、「株式」のような機能を果たす。トークンは開発者にも利用者にも配られ、保有者全員が投票して方針を決め、事業を育てる。

DAOやトークンのプログラムの記述形式は既に開発者の間で標準化されている。だから特定企業のプラットフォームに頼らずに済み、力の集中が起こらない。世界には既に約6千のDAOがあるといわれる。

NFTの本質は、デジタルアートやネット上の「不動産」などの所有権をブロックチェーン上で確定する「登記」の証明書だ。これによってDAOなどの事業体がネット上で全て完結する事業をつくれる。

ウェブ2.0で米国勢に完敗した日本企業にとって、Web3は同じスタートラインから世界で勝負しなおす好機となりうる。だが世界も走り出している。米ワイオミング州では4月、DAOに法人格を認める法律が成立した。

日本の自民党はDAOの商法上の位置づけやトークンの税制での扱いについて制度整備するよう提言した。「Web3業界」が日本で栄えるには提言だけでなく実現が必要になる。