https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD14BUO0U2A610C2000000
外壁工事の足場がコスト要因
外壁工事は建物全体に仮設の足場をかけた大がかりなものとなるため、併せて他の部分も工事する。これが一般的な大規模修繕だ。その費用は人手不足などで上昇傾向。「そのコストを抑えようと考え出されたのが修繕周期を延ばす手法だ」(渕之上さん)
確かにここ5~6年で、野村不動産パートナーズ、東急コミュニティー、三井不動産レジデンシャルと大手企業が相次ぎ「最長18年周期の修繕」の提案を始めていた。もっとも、基本的に自社系列の分譲マンションを長周期化の対象とする会社が多く、他社分譲もOKとする東急コミュニティーも、マンション管理受託が条件で、対応エリアなどにも一定の制約がある。
どんなマンションでも可能性あり
60年間で費用14%削減
「実は大規模修繕費用の約2割は足場のコストが占める。足場をかける回数が減る効果が大きい」(土屋さん)。野村不動産パートナーズや三井不動産レジデンシャルが一定条件を置いて行った試算でも、長周期化により60年間で総費用が14%程度削減できるとなっている。建物の個別事情で削減額には差があるが、長い目でみれば長周期化で総費用は減る例が多そうだ。
長周期化の利点を知ると、逆に「なぜ今まで12年周期ばかりだったのか」という疑問がわいた。渕ノ上さんは「明確な周期の根拠はない」と教えてくれた。以前、防水材などは10年保証が多く、保証切れ後1~2年の調査などを経て修繕することは多かった。ただ、12年周期が定着したのは2008年に国土交通省が定めたガイドラインで修繕周期は「12年程度」と記載された影響が大きかったという。土屋さんも「ガイドラインは目安にすぎないのに、国の文書に書かれたことで『数字が独り歩き』した」と語る。
そのガイドラインも21年の改定時、周期の記載は「12~15年程度」と書き直された。長周期化が追認されたような格好だ。ただ、渕ノ上さんは「今後は逆に『18年が当然』と思い込むのは避けたい」と話す。「12年から一気に18年に延ばせるとは限らない。まず15年程度の周期で計画し、実情を点検しつつ工事時期を決める方法もある」という。
大規模補修、必要性減りそう
それどころか、「いずれ『大規模修繕不要のマンション』が現れるかもしれない」(土屋さん)。多少の補修は必要でも、足場をかけた大がかりな工事の必要性は材料や工法の進化で徐々に薄れていくという予測だ。
今は夢物語のようでも、未来はわからない。例えば、今から60年前は、まだ分譲マンション黎明(れいめい)期で、当時マンションという住宅形態が700万戸に迫る規模に発展すると予見できた人は少なかっただろう。
今、18年周期の修繕を採用してコスト削減を実感するには60年程度かかる。その60年後には、もしかすると「昔のマンションには大規模修繕なんてものがあったんだ」と振り返る時代になるかもしれない。
(住宅問題エディター 堀大介)


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