https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62212110Q2A630C2EN8000
来春の「ポスト黒田」を見据えると、日銀の大規模緩和は続けられないとの見方を強めているためだ。投資資金の多くを借り入れで賄うREITは金利上昇に弱い。地銀も外債損失の穴埋めに追われ、買い手不在が現実味を帯びている。
「円安が政治問題となるなか、日銀が長短金利操作(イールドカーブコントロール=YCC)の修正に動くのは時間の問題では」。まさに金融政策決定会合が開かれていた6月16~17日。シンガポールで海外投資家と面談を重ねていたモルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎アナリストは、こんな問いを繰り返し浴びせられた。
日銀は緩和維持を決めたが、竹村氏が帰国後に改めて連絡をとっても「これを好感して買い増そう、といった話は出なかった」という。
海外投資家の変調にREIT市場は身構える。東京証券取引所によると2月時点で国内上場REITの26%を保有し、売買高に占める割合は7割弱にも及ぶ。2021年通年では2600億円を買い越していた。
その海外勢は5月、211億円の売り越しに転じた。6月分は未公表だが、国内の金融機関や個人が使うREITに特化した投資信託には900億円近い資金流入があった(24日時点、日興リサーチセンター推計)。6月中旬のREITの大幅安は海外勢の売りが主因だったとの見方が多い。
「金利上昇は3つのルートでREITに逆風となる」(ニッセイ基礎研究所の岩佐浩人不動産調査室長)。まずREITの有利子負債比率(LTV)は平均45%と、借り入れをテコに運用している。借入金利が1%上昇すれば分配金原資の利益が16%減る計算だ。
また、REITの投資家は長期金利にリスクプレミアムを上乗せした配当利回りを要求する。長期金利が上がれば配当利回りにも上昇圧力がかかり、投資口価格(株価に相当)は下がる関係にある。金利が1%上がれば投資口価格は21%下がると岩佐氏は試算する。
金利上昇は不動産価格にも影響を与える。不動産が値下がりすればREITの純資産総額(NAV)は減り、景気が悪化すれば賃料を押し下げる。ニッセイ基礎研によると、日銀が長期金利の上限を0.5%まで引き上げた場合、分配金は4%、投資口価格が6%、NAVが9%下落する。
国内で主な買い手の地銀を取り巻く環境も大きく変わった。マイナス金利が長期化するなか、地銀はREITだけでなく、配当利回りすら狙って株式を買い増してきた。
三菱UFJトラスト投資工学研究所の推計では、有価証券運用に占める国内外の株式と外国社債、REITの比率は2割弱まで増えた。これら資産の値動きの相関は足元で大きく高まっており、リスク管理上、一段の買いは難しい。
ある関西地銀の運用担当者は「日銀の政策修正があり得るとすれば、どんどん買うのは腰が引ける」と明かす。地銀の多くは海外金利の上昇(債券価格の下落)で22年3月期に含み益が減少したが、金利上昇は4月以降も続いている。手負いの地銀が海外勢の穴を埋められなければ、REITの調整は想像以上に長引く。


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