「正直不動産」に期待

合計2000件もの問い合わせに加え、ネットの見逃し配信の再生回数の新記録を達成したという。突然嘘がつけなくなった不動産営業マンが活躍するという漫画が原作だ。様々な要因があろうが、不動産市場の活況に対する関心の高さも大きかったと思われる。

昨年度の新築マンション価格は東京23区平均で8449万円。前年度比11.7%の上昇で30年ぶりの高値となった。住宅ローンは年収の10倍程度が一般的なので東京都の推定平均年収で試算すると2千万円以上の自己資金を投入したことになる。意外にも昨年度のマンションの購入資金全体に占める預金の割合は19%と、過去5年の平均から6ポイントも低下した(三大都市圏)。

一方で大きく増えたのは保有不動産の売却である。昨年度、新築マンション購入に充てられた保有物件の売却代金は463万円にのぼった。リーマン・ショック後最高で前年度から2倍以上となった。人々が購入を決めた経済的要素では「低金利」や「収入見通し」を超えて「従前住宅の売却価格」がトップとなった。

今の強い市場がこうした価格上昇の循環がなせる業だとすると、流れが止まった瞬間が怖い。バブルの頃にもあった話に聞こえるが、あの頃は投機の買いが多かった。しかし、今は実需の買いがほとんどだ。価格が下落した場合の影響が大きいのは一般個人、特に物件高騰で借り入れが膨張している若年層だ。低金利や景気が維持されれば返済には困らないだろう。しかし不確実性が伴うしローンを抱えて不動産価格が下がれば心理的な負担は免れない。不動産会社や銀行には好調な今だからこそ、こうした価格や金利のリスクもしっかり説明して「正直」な業界として信頼を維持してほしい。

(マネックス証券専門役員 大槻 奈那)