卵焼き老舗の玉吉が破産 支払い遅延は私的整理も難しく 企業信用調査マンの目

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新型コロナウイルス禍で多くの飲食店が厳しい経営を強いられるなか、同社の主要取引先である飲食店の営業自粛が響き、受注が減少した。スポンサーを模索したものの見つからず、70年の歴史に幕を閉じることとなった。

 

すし店などに営業基盤

同社は卵焼きで有名な京都の総菜メーカーの東京支店から独立し、1952年2月に個人で創業した。60年9月に法人改組した。関西をルーツとした独自の製造ノウハウを有し、本格的な卵焼きを守り続けた。「卵焼きを食べれば、そのすし職人の腕がわかる」との言葉があるように、すし店などの個別要望にもきめ細かく対応することで信頼を得て、関東圏を中心としてすし店や弁当業者などに営業基盤を構築した。

廉価品が台頭

しかし、ここ数年は大手の大量生産による廉価品の台頭や、需要先であるすし店や弁当業者、総菜業者などの後継者難や業績不振による廃業や閉店が続くなど、取引先数が減少した。売り上げは右肩下がりで推移し、赤字決算を散発するなど厳しい経営を強いられていた。

スポンサー見つからず事業停止へ

19年8月期末時点で資金繰りが困窮し、金融機関に借入金の返済条件を緩和してもらった。複数の取引先に対しては、同年11月ごろに支払い遅延や支払い条件を変更する事態に陥り、信用不安が一気に広がっていった。厳しい資金繰りにより綱渡りの状況が続くなか、同社の方向性を決定づけたのが新型コロナの感染拡大だった。

資金が枯渇する事態となり、社会保険料の納付猶予や消費税の納税猶予措置を受けて資金繰りをつなぎつつ、再建策として事業の承継先となるスポンサーを模索したものの見つからず、21年2月10日をもって事業を停止することとなった。その後、機械・設備の譲渡など資産売却を進め、22年4月15日に東京地裁へ自己破産を申請し、同月27日に破産手続き開始決定を受けた。

注目される過剰債務企業の行方

コロナ禍も3年目となり、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置をはじめ、様々な制限が解除された。新規感染者の減少とともに、既にアフターコロナの状況となりつつある。だが、22年6月29日16時時点で「新型コロナ関連倒産」は累計で3610件発生し、22年だけでも既に999件発生している。

事業再生のガイドライン開始

22年度に入り、コロナ禍で過剰債務を抱える企業の事業再生を見据え、4月15日から「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が始まった。同ガイドラインによる私的整理手続きには「再生型」と「廃業型」の2つの手法があるが、これら私的整理手続きを進めるに当たって、大きなポイントが2つある。

1つ目は、税金や社会保険料など公租公課がきちんと支払えるかどうかだ。公租公課はこうした手続きにおいて、債務カットの対象外となるため、資金的に公租公課が支払えない場合は、私的整理手続きは難しい。

2つ目は、資金繰りがある程度確保されているかどうかだ。金融機関からの借入金について、返済猶予や場合によっては債務免除を要請したとしても、それ以外の一般の取引先や前述の公租公課については、通常の支払いが必要となる。従って、これらの支払いに支障が出ない程度の資金を確保しなければならない。

本業による収入と支出の差額を表す営業キャッシュ・フローのマイナスが続いているような企業は、私的整理手続きを進めるのは難しいといえよう。

今回のケースを見れば、社会保険料や消費税の納税猶予などの措置を受けていたうえ、既に19年11月以降、支払い遅延や支払い延期要請の話が出ていたことを考慮すると、私的整理手続きでは難しかったのではないだろうか。その意味では、この手続きを進める際は早い段階で決断し、着手する必要があり、平時から金融機関に対し十分な経営情報を開示するなど十分な信頼関係を構築しておく必要があろう。

コロナ禍で過剰債務を抱えている企業の中には、公租公課の支払いが厳しいとされる企業が数多く存在すると聞かれる。新たな私的整理手続きのガイドラインがスタートしているものの、今後、多くの企業の私的整理手続きが果たして進むのかどうか。アフターコロナにおいて過剰債務を抱えた企業の行方が注目される。