米債ショック国内金融への波紋(上) 3メガ銀、外債含み損4.7倍 米金利上昇で急増 長期債シフトも及ばず

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3メガバンクの外国債券含み損は3月時点で1兆7000億円を超え、2021年末比4.7倍に急増。前回の金利上昇局面(2017年3月期)と比べても6.5倍だ。有価証券全体で含み益を確保しているものの、自己資本に影を落とすリスクもある。

 

「メガバンクの外債の含み損は足元でいくらか。損出しはするのか」。海外のヘッジファンドから証券会社に問い合わせが増えている。メガが保有する債券の価値は大きく下がり、次の一手に市場関係者の注目が集まっている。

「ハリケーンはすぐそこにある」。JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者は6月の投資家向け説明会でこう警鐘を鳴らした。予想以上のインフレと急ピッチに進む金融引き締めが経済の混乱を引き起こすのではないか。メガの運用担当者も「これまでになく厳しい年だ」と口々に言う。

3月時点の外債含み損は3メガバンク合計1兆7000億円以上まで膨らんだ。含み損は売却しなければ損失が表面化しないが、回復の見込みが乏しければ損失処理を迫られる。

米5年債や10年債など長期の利回り急騰は想定外だった。3~4月の10年債利回り上昇幅は1.1%超。2カ月間の上昇幅としては1985年5月以降最大だ。超長期債や住宅ローン担保証券(MBS)の残高を圧縮する方針を21年夏ごろに決めたみずほFGの含み損拡大幅は、三菱UFJや三井住友よりも小さい。

りそなホールディングスは1~3月期で550億円の売却損を計上した。新型コロナウイルスが拡大した20年に経済の長期低迷を見込んで、低い利回りの債券を主体に切り替えていた。その後のインフレと金利上昇で調達コストが運用収益を上回るリスクが強まった。南昌宏社長は「逆ざやで持ち続けるよりも、資産を入れ替えて将来の柔軟性を確保した」と話す。

一方、3メガバンクには今のところ、巨額の売却損を計上する動きはない。三菱UFJの米花哲也最高財務責任者は「22年度は従来に比べると抑制気味の計画にしている」。他行も「ポジションを落としてリスクを抑える」と言う。

みずほ銀行の津田礼爾国際証券投資部長は「相場の環境を慎重に見ながら、利回りの高いアセットを仕込んでおく。金利が低下に転じた時が売却で利益を出せるチャンスだ」と話す。別の担当者は「(米債への投資は)リスクフリーで3%近くの金利を取れるとするとこんなに良い機会はない」と見る。

もっとも高い金利は調達コストとの見合いもある。邦銀は外債投資するためのドルを市場で調達するケースが多い。一般的なのは国債を担保に短期資金をやりとりする「レポ取引」だ。利上げに伴ってドルの調達金利も上昇傾向にあり、逆ざやにならないようにするには運用で求められる利回りが上昇する。貴重な収益源だった外債運用は岐路に立っている。

有価証券運用がやっかいなのは金融当局が課している自己資本比率規制との関係だ。

3メガバンクが運用目的で保有する有価証券は全体で5兆円を超す含み益。株式の含み益が6兆4000億円程度あり、外債の含み損を相殺した。国際的に活動するメガバンクは有価証券運用全体で含み損に転落しなければ自己資本は目減りしないが、転落すれば自己資本が目減りするルールだ。

米リーマン・ショック直後の09年3月期決算は全体で含み損に転落した。今のところ健全性を脅かす状態ではないが、不安定さを無視できる状況ではなくなりつつある。