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空室の割合さえ確認できない管理組合もあり、管理費の滞納で建物の維持や保全が難しくなるほか、建て替えといったマンションの重要な決議に必要な賛成が集められなくなる。国は対策として不明な所有者を決議から除外する「強硬策」の検討を始めた。
空室割合が不明
「軽視できない数値だ」。東京都のマンション担当職員は空室の状況についての調査結果に警戒を強める。一定の条件を満たす都内マンションに聞き取ったところ、2021年末の時点で回答した1万棟弱の約30%が空室を抱え、これとは別に「空室割合が不明」と答えたマンションも約12%。空室がどの程度あるかさえ把握できないマンションが都内だけで1000棟以上ある計算だ。
所有者の名簿などの整備に問題を抱える実態がにじみ出し、空室の所有者の所在把握に問題が生じる事態になっている。
マンションの空室に関する全国調査は18年度の国土交通省のものが最新だが、この時点で既に約30%に空室があり、4%弱は所有者の所在なども不明だ。空き家などの問題に詳しい大阪経済法科大学の米山秀隆教授は「都の調査や全国的な老朽マンションの増加を踏まえると、所在がつかめない所有者は確実に増えている」とみる。
通常、マンションは新築から時間が経過するほど所有者が高齢化し、介護施設への入所や別居する子供らへの相続などで空室が生じやすくなる。管理組合は非居住所有者との接触に十分な人手を割けず、所在が把握できなくなる例が多い。
不明な所有者が増えると、まず管理費や修繕積立金の滞納で組合の財政が悪化する。重要事項を決める決議にも支障が生じる。マンションの意思決定は区分所有者の多数決によると定められている。決議は重要事項ほど「4分の3以上」「5分の4以上」など高い賛成割合が求められる。
現行ルールでは不明所有者も賛成割合を判断する分母に含まれる。コンドミニアム・アセットマネジメント(東京・中央)の渕ノ上弘和代表は「共用部の変更や建て替えなど賛否が拮抗する重大決定では、不明な所有者がある程度の規模に達すると、決議はほぼ不可能な状態に陥る」と話す。
国もこの問題を重視。22年5月末には所有者不明土地などの問題に対応する関係閣僚会議で「今後急増する老朽マンションで所有者不明が深刻化する」との懸念が明示された。これまで地方の郊外を中心とする所有者不明の土地や建物への対策が目立っていたが、ある政府関係者は「都市部ではマンションが、地方の土地に匹敵する所有者不明の不動産問題に発展しかねない」と危惧する。
対策は法務省、国交省も加わる有識者研究会で議論が進む。不明な所有者をマンションの決議の分母から除外する内容だ。実現すれば、所在がわかっている所有者の間だけで一定の賛成を集めることで意思決定が進む。不明の所有者の権利保護にも配慮し、裁判所など公的機関の関与の下で除外する方向だ。
自治体が認定
ただ、何をもって所在不明と判断するか、除外する決議の対象や期間をどうするかなどはなお調整を要する。これらも含め、22年度中に論点を整理した後、法制審議会(法相の諮問機関)での法制化検討へ移る予定だ。
築40年超のマンションだけで既に100万戸を超すだけに、新制度の施行までの間にも状況は悪化し得る。所有者が不明になるのを未然防止する取り組みも欠かせない。
希望となるのは、4月に始まった適切な管理計画があるマンションを自治体が認定する制度だ。認定基準には「組合員・居住者の名簿を備え、年1回以上は内容確認する」ことが盛り込まれた。さくら事務所(東京・渋谷)の土屋輝之マンション管理コンサルタントは「名簿の整備が項目の一つと明示された意義は大きい」と話す。
6月中旬には都内で第1号認定マンションも出た。管理不全のマンションの拡大を防ぐには、個人情報保護などの点から所有者情報の把握に及び腰だった管理組合が変わる契機となる政策をさらに推進する必要がある。
(住宅問題エディター 堀大介)
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