https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN264310W2A620C2000000
ロシア産石油の輸入停止措置は、原油高で狙い通りの成果を上げられていない。価格に上限を設ける案で合意したが、今後の制度設計に課題が多い。
G7サミットは同日、エネルギーや気候変動についてインドやインドネシアなど招待国を加えた拡大会合で議論した。G7首脳はロシア産石油価格に上限を設ける仕組みづくりの開始で合意した。
米政府高官は「ロシアの収入を減らし、他国への副作用を抑えるという2つの目的を同時に達成できる」と説明した。
G7は28日、ロシア産の金の輸入禁止を発表する見通し。同国の金の輸出額は2021年に約2兆円と、石油やガスなどエネルギーの30兆円超に次ぐ主力産品だ。
追加制裁に踏み込むのは、侵攻を終わらせるためにロシアの収入源を断ち切るという目的を達成できていないからだ。米欧日の制裁で原油価格が上昇し、むしろロシアの収入が増えている。
ロシアのもう一つの主力収入源である天然ガスでもG7は対応策を探る。ガス価格にも上限を設ければ、ロシアが報復に動き供給をさらに絞る恐れがある。ロシア産ガスに依存する欧州には死活問題になりかねない。
ロシア政府系ガスプロムは15日、パイプライン「ノルドストリーム」を通じたガスの供給量を6割ほど減らすと発表した。欧州では「エネルギー価格を高騰させるための戦略だ」(ハベック独経済・気候相)との受け止めが広がる。欧州メディアによるとイタリア、フランスでもガス供給の削減や停止が起きた。
オランダやデンマーク、ポーランドなどではロシア通貨ルーブルでの支払いを拒否してからロシア産ガスの供給が止まった。ドイツ政府はガス不足で緊急調達計画の3段階中2段階目にあたる「非常警報」を23日に発令した。ガスの配給制に至る警戒も広がる。
ガス業界団体のGIEによると、6月20日時点の欧州のガスの在庫率は55%で、例年の推移と大差ない。需要期の冬までに8~9割に引き上げる目標はメドが立たない。
ロシア産エネルギーからの脱却を進めるには、複合的な対策が欠かせない。バイデン米大統領は7月、サウジアラビアを訪れて原油の増産を働きかける。
欧州では石油や天然ガスの消費量を減らすため、石炭への回帰が進む。ドイツ政府は19日、石炭火力発電への依存度を引き上げる方針を打ち出した。隣国のオーストリアも停止中の予備のガス火力発電所を石炭火力に改造する方針を決めた。
サミット議長国のショルツ独首相は26日「我々は新興国の気候変動対策を支援する」と述べた。だが、短期的には先進国で化石燃料を活用し、温暖化対策を足踏みさせざるを得ないのが実情だ。


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