住友林業最高顧問 矢野龍(26)僕と英語 入社式でケネディ引用 海外の友人は生涯の財産

社長時代、入社式の訓示で僕は毎年、ケネディ大統領が米国国民に呼びかけた有名な演説を引用した。

 

「Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country(国が何をしてくれるかを問うのではなく、国のために何ができるかを問うて欲しい)」という言葉の「country」を「company(会社)」に変えて新入社員にお願いするのである。

これはなにも会社に滅私奉公をしてくれというのではなくて、会社はあなた方に人生の活躍の舞台を用意するから、思う存分そこで自分の能力を発揮して悔いのない人生を歩んでほしいという意味で言ったのだ。せっかく安定した会社に入って働くのだから、自分の意思で主体的に面白く仕事に取り組んだほうがいいと思うからだ。

大学で実用英語を勉強し、入社試験で尊敬する人はケネディ大統領と書いて会社に入った僕は、その後、米国のシアトルで長く暮らすなどしているうちに、英語文化から大いに感化を受けた。それで日本に帰っても、社長になっても、日ごろからこんなことをよく言ったのだ。「Where there is a will, there is a way(志あるところに必ず道は開ける)」なども、数え切れないくらい言った。

パーティーなどの時に、まだ宵の口ですよというのを「Night is young」と言ったり、あなたとは相性がいいというのを「Our chemistry is good」と言ったりする英語のシンプルなところが僕はとても好きだ。

僕は江戸時代から受け継がれてきた住友の事業精神に感銘を受け、それと米国仕込みのポジティブでシンプルな考え方、ものの言い方が混合したような社長であったわけだが、それで失敗したようなこともなかったので、良かったのではないだろうか。会社を引っ張るのにはシンプルな物言いが適しているようにも思われる。

しかし僕の人生はどんなにか英語のお世話になったことだろう。僕の取りえは闘争心と体力と、あと僕の年齢にしては、聞いて話せる人が今ほど多くはなかった英語だと思うのだが、実用英語を学んだおかげで闘争心と体力を、日本の中だけではなく米国や欧州、オセアニア、南米と、世界のあちらこちらで発揮する機会に恵まれた。

社長をしていたころは毎日のように海外の知己に電話をかけ、また向こうからも電話がかかり、最新の情報を収集した。向こうの会社は面白くて、トップのバトンタッチの際に、どの人物がいいと思うか、取引先の僕に聞いてきたりもした。

そんな仕事上の付き合いはいつしか、お金では買えないような友情となって僕の人生を豊かにしてくれた。

米国最大の森林保有会社、ウェアーハウザーの会長であるリック・ホーリーは、同じ辰(たつ)年生まれの一回り下なので、四国の道後温泉などに行くと、日本式で年長者を立てて背中を流してくれたりする。僕が以前、問い合わせにリックがいいと思うと言って、無論そればかりが理由ではあるまいが、昇進したことがあって、恩義に感じているらしくもある。

もっとも、親しかった海外の友人たちも多くが亡くなってしまった。40年近い夫婦付き合いだった森林保有大手のセント・レジスのボブ・ラドクリフも18年前に鬼籍に入った。昨年、奥さんのフィリスが102歳になったのでお祝いに行くはずだったのだが、コロナ禍で行けなかった。今年中にはなんとか行きたい。