https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC216AF0R20C22A6000000
新制度で自治体はマンション管理に関与できるようになった。しかし自治体の体制整備は遅れていて、管理状況の支援にどこまで踏み込めるかという課題も残る。
同制度は改正マンション管理適正化法に基づき、マンション管理適正化推進計画を策定した市区(町村は都道府県が策定)が、一定の基準を満たすマンションの管理計画を認定。必要に応じて助言、指導、勧告をすることができる。
ただ、認定に必要な推進計画を策定済みの自治体はまだ大阪市、名古屋市、福岡市など40余りにとどまり、東京23区では板橋区だけだ。策定済みでも京都市は9月、横浜市は11月ごろから認定の受け付けを始める。管理組合の認定申請は任意で、管理不全のマンションをあぶり出す効果は乏しい。
認定第1号は築50年近いマンション
全国で認定第1号となったのが東京都板橋区の高島平ハイツ(1974年完成、95戸)。築50年近いマンションながら、定期的に修繕工事をして手入れが行き届き、古さを感じさせない。最近、3LDKの住戸が新築時の価格の2倍近い3740万円で売れた。
管理組合は役員が1年交代の輪番制で、長らく管理会社がつかない「自主管理」で運営してきた。しかし居住者名簿や総会・理事会の議事録がきちんと整備、保管されている。認定を申請した前理事長の篠原満さん(76)は「第1号認定に恥じないように、今後も適切な維持管理を続けていきたい」と話す。
認定を受けるには国の定めた17項目の認定基準をすべて満たす必要がある。中でも長期修繕計画は「30年以上で大規模修繕工事が2回以上含まれる」としていて、修繕積立金が不足している管理組合にとってはハードルが高い。
さらに自治体が独自に評価基準を追加することができる。板橋区は自主防災組織の結成、要援護者名簿や危機管理マニュアルの整備、自治会設置などのコミュニティーの形成などを規定。認定ステッカーやプレートも用意した。
埼玉県所沢市は修繕積立金について、支払額を当初は低くして、後に増加する「段階増額積立方式」ではなく「均等積立方式」にすることを努力義務として求めている。
情報公開や条例制定相次ぐ
全国で約670万戸にのぼる分譲マンションは、建物の老朽化と住民の高齢化の「2つの老い」が進む。大都市圏の自治体では、マンションの届け出制度を設けて実態を把握し、専門家の派遣や相談会などの支援をしている。
先駆けとなったのが、横浜市が04年に始めたマンション登録制度だ。登録した管理組合に講習会や支援制度の情報提供をして、20年度末で987組合が登録している。川崎市も07年、任意のマンション管理組合登録制度を始めた。
東京都豊島区は13年、全国で初めて届け出を義務付ける条例を制定した。対象は2戸以上の実質すべてのマンションで、管理不全の場合は区が指導、勧告をして、マンション名を公表する罰則も設けた。その後、都内では武蔵野市、墨田区、板橋区が相次ぎ条例を制定。いずれも実態把握や管理水準の底上げに一定の成果を上げているという。
東京都も20年、都道府県で初めてマンションの適正管理促進条例を施行し、1983年以前に建てられた6戸以上の高経年マンションを対象に、届け出を義務付けた。
不動産コンサルティングのさくら事務所(東京・渋谷)の土屋輝之執行役員は「申請・届け出はあくまで任意であり、管理不全のマンションは申告しないだろう。管理状況の二極化が拡大するおそれもある」と指摘する。
管理業界は星数の評価制度を創設
一方、管理会社でつくるマンション管理業協会も4月から「マンション管理適正評価制度」を始めた。全国共通の5分野・30項目の評価基準を100点満点で採点し、「5つ星」(90点以上)から「星なし」(0点以下)までの6段階で評価する。評価結果は協会のサイトで公開し、不動産取引サイトでも物件の評価が見られるようにする。
最高位の「5つ星」第1号となったのが、東京都江戸川区のプラウド葛西(14年完成、29戸)の管理組合だ。伊敷夢二理事長(47)は入居した際、「自分の資産を管理会社任せにせず、きちんと守りたい」と理事長に立候補し、現在まで務めている。
IT企業に勤務しながら、マンション管理士や管理業務主任者の資格を取った。築12年目に設定されていた大規模修繕工事を16年目に延ばし、修繕積立金も19年に引き上げて均等積立方式に改めた。「これまでの積み重ねがあったので、申請作業は特に対策もせず、自然体で進められた。マンション管理は地味で、苦労がなかなか報われないが、この波に乗って管理の価値を高めていきたい」と話している。



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