話が前後するが、社長になって6年目の2004年に女性の業務企画職(一般に言う総合職)の採用を始めた。大企業ではずいぶん遅い方ではなかっただろうか。すぐには人も育たないから、ほどなく幹部候補として女性の中途採用も始めた。
僕は住友林業をもっと良い会社にしたいといつも思っていた。
木を植えて育てる植林が祖業の住友林業は、二酸化炭素(CO2)の排出量がマイナスの会社だから、最近は環境保護などの観点から高い評価を受けたり、関連の株価指数の銘柄に採用されたりする。ほうっておいてもその点はいい会社だと思うのだが、それ以外ではどうだったか。
僕が社長になる前の役員の時に、専門のコンサルタントを3カ月間会社に入れて女性活躍のレベルを評価してもらったことがあった。結果は散々で、要はこんな遅れた会社は見たことがないというのが結論であった。
自分で言うのもなんだが、女性活躍のキャッチアップという意味では、住友林業の社長がこの時期に僕だったのはいいことだったのではないだろうか。
早くに父親を亡くし、母と姉、妹に、男は僕一人の家庭で育った。人生で僕が一番尊敬する人は母親だ。資力の制約から大学に進学させてもらえなかったが、姉は僕よりずいぶん勉強ができた。
結婚してからも、妻は家庭では僕より強く、外では山登りが趣味で、日本百名山を踏破し、アフリカのキリマンジャロなど海外の名峰にも登った。海外を連れ回した一人娘は米国でニューヨーク州の弁護士になり、自分の子かと思うほどにタフである。
仕事でも米国駐在が長かったので、向こうの会社の社長が来客があった際、コーヒーを自分でいれるのを見てきた。海外の友人たちはホームパーティーの皿洗いを自分でやるので、それが伝わって、家でも皿洗いは僕の役目だ。
そんなわけで自分が社長になってからも、女性の秘書に朝のコーヒーなんかはいれさせなかった。旧弊に合わせることをしないで、もっと実のある会社業務に時間を使って欲しいと思ったからだ。
これは誤解されたかもしれないが、以前からの慣例で役員会の入室チェックをしていた女性社員に「そんなことはやらなくていい」と注意してしまったこともあった。誰が来ていないかを把握して「みなさんお集まりです」などと連絡を入れたりする役目なのだが、そんなのは役員が自分で時計を見てやればいい。ただこのときは、秘書室長か誰かに言うべきことであって、注意する相手を間違えた。
女性活躍を推進する要諦は抜てきであると経営者の集まりで教えてもらい、それもすぐに実行した。
男女平等に、持っている力量で評価すべきだという考えの人もいるが、優秀なのに、不利な処遇のなかで、外との折衝や組織の統率の経験をしてこられなかっただけなのであって、それは遅まきながらでもやってもらうほうが会社のためになる。やればすぐにできるようになるのだ。
会社は社会の常識やルールのなかに存在するもので、それを制約とうるさがるようでは経営者として失格ではあるまいか。話がそれたが僕は監査役が言うことも、天の声だと思って従った。総合職で女性を採用するようになって20年近くがたち、それぞれに力を付けていて頼もしい。もう少ししたら、総合職採用の人たちも役員の年代になってくる。会社をどう変えてくれるか、本当に楽しみだ。
(住友林業最高顧問)

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