「酒」特区、活気も醸す 全国の認定醸造所、10年で1.7倍

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国が指定する酒製造に関わる特区は2003年のスタートから21年11月時点までに全国274カ所に広がり、醸造所も増えている。地域限定の酒を観光資源にする取り組みも目立ち、観光や農業など裾野の広い関連産業が地域を潤している。

 

「酒」特区は03年に小泉純一郎政権下で施行された構造改革特別区域法によって認められた特区のひとつ。認定を受けると域内で新たに酒の醸造所を設置する際に、酒税法で定められた年間の最低製造量が適用されないか、制限が緩和される。

ブドウや米など、その地域で採れた特産物を酒の原料にすることが条件で、対象の酒類は段階的に拡大された。現在ではどぶろくやワインなどの果実酒の他に焼酎、リキュールなどが特区で製造できる。19年には「日本酒の製造体験」も特区に追加された。構造改革特区の中で「酒」は成功例の一つといえる。

国税庁と内閣府が公表するデータをもとに日本経済新聞社が調べたところ、特区の数が最も多かったのは長野県で26カ所。以下、高知県、秋田県と新潟県が続く。特区の認定を受けた醸造所も20年度末に全国で300カ所を上回り10年前の1.7倍となった。

長野県小諸市や東御市など9市町にまたがる広域のワイン特区、「千曲川ワインバレー(東地区)」。特区制度を活用していない醸造所も含めて21軒のワイナリーがある。共同でワインツーリズムを推進しており、5月28日と29日には、小諸、上田、東御、坂城の4市町がワインの試飲や販売のイベントを開催した。

イベントには2日間で約4000人が来訪。同特区に沿ってローカル線のしなの鉄道が走り、各市町が駅周辺でイベントを開催することで鉄道の利用客増にもつなげた。秋にはさらに長い期間で同様のイベントを開く計画で、約1万人の集客を目指す。

特区認定で中心的役割を果たしたワイナリー「アルカンヴィーニュ」(同県東御市)の小西超さん。「地域で移住者を支援する態勢が整い、良い流れが生まれている」と話す。同市にはこの5年間でワイン造りに興味を持つ人が約10人移住した。長野県の醸造用ブドウの19年の生産量は6788トンと、ワイン特区が始まった08年の2倍超だ。

新潟県佐渡市の「尾畑酒造」は、廃校になった小学校で15年から酒造り体験プログラムを毎年夏に実施している。参加者は杜氏(とうじ)のアドバイスを受け酒造りを体験する。酒は「学校蔵」のブランドで販売もされる。

参加者の9割は新潟県外から。新型コロナウイルス禍以前は米国やオーストラリアなど海外から訪れる人もいたという。尾畑酒造の平島健社長は「体験を通じて日本酒の良さを知った『インフルエンサー』が、日本酒を知らない人に魅力を伝えてもらえれば」と広がりに期待を示す。

新型コロナ禍による観光客の減少を受けて、技術を生かした新たな取り組みも出てきた。どぶろくで観光客を呼び込んできた高知県西部の三原村は、どぶろく造りを応用して幅広い世代で楽しめる甘酒を開発した。商品は通販などで年に約2万本を販売。コラボレーションしたお菓子の商品化企画も進む。

一方で認定取得後も製造まで至っていない特区もある。10年に取得した秋田県大館市のどぶろく特区では地元の温泉街が町おこしで醸造を検討したが、設備投資に踏み切れないまま。地域は特区申請の前段階から自分たちの強みをしっかり洗い出し、認定後は一丸となって担い手を支える努力が不可欠だ。