中絶の権利に対する憲法の保障がなくなり、全米の半数以上の州が中絶の禁止や厳しい制限に動く見通しだ。バイデン大統領はホワイトハウスで演説し「最高裁は米国民の憲法上の権利を奪った」と批判した。
11月の中間選挙に向け、中絶の権利擁護を求めるリベラル派と反対する保守派の対立が激しくなり、米社会の分断がいっそう進む公算が大きい。
50州中26州で禁止・制限も
判決文は「憲法は中絶の権利を与えていない」と明言。ロー対ウェイド判決は無効とし、中絶を規制する権限は「国民と国民に選ばれた代表に戻す」とした。州が中絶を規制することを認めた。
判断は、妊娠15週より後の中絶を原則禁じる南部ミシシッピ州の法律の合憲性を巡る訴訟に対するもの。保守派判事5人が支持、リベラル派判事3人が反対し、ロバーツ長官は判断を容認する立場を示した。最高裁はトランプ前大統領が保守派判事3人を指名したことで、保守派6人、リベラル派3人と、勢力が保守に大きく傾いている。
73年の判決は一般的に妊娠23週前後とされる胎児が子宮外で成育可能になるまでの中絶を認めており、下級審はこれを基に同州法の施行差し止めを命令。同州が最高裁に上訴し、州法の容認だけでなく73年判決自体の見直しも求めていた。
米グートメーカー研究所によると、判断を受けて全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込みで、その多くは保守地盤の州だ。
例えば南部ルイジアナ州では21日、中絶を実施した者に最高で禁錮10年、罰金10万ドル(約1350万円)を科し、性的暴行や近親相姦(そうかん)による妊娠にも例外を認めない中絶規制強化法が成立した。最高裁の判断と同時に発効する。一方で民主党地盤の州は中絶への保険適用を拡大するなど中絶の権利保護を強化している。
最高裁の草稿、異例のリーク
最高裁の判断を巡っては、5月に多数派意見の草稿がリークされ、女性の「選択の自由」が奪われるとして 権利擁護派が抗議デモを展開していた。抗議活動が激化するのは必至だ。
バイデン氏は24日の演説で、多数派の保守派判事による判断について「最高裁の極端なイデオロギーと悲惨な誤りの表れ」と非難。議会が中絶の権利を守る連邦法案を可決する必要性を訴え、中間選挙で中絶の権利擁護派に投票するよう有権者に呼び掛けた。
またバイデン氏は、保守派のトーマス判事が判断を支持する意見の中で、同性婚を憲法上の権利と認めた2015年の判断や避妊の権利に関する判断も見直すべきだと主張したことに言及。リベラル派の危機感をあおった。
民主党のペロシ下院議長は同日、記者団に対し、下院がすでに中絶の権利を保護する法案を可決していることを指摘し「法を成立させるためには(民主党が)多数派を獲得しなくてはならないのは明白だ」と強調した。
トランプ氏「最大の勝利」
トランプ氏は声明で「今日の判断は生命のための最大の勝利」と評価し、保守派判事3人の指名など自分が公約を実現したからこそ可能になったとアピールした。
ニューヨーク州のホークル知事は24日、最高裁判断を受けて声明を発表し、「何百万人もの米国人が自分の体について決める権利を奪った」と非難した。ニューヨークでは中絶が合法である旨を強調した。
ニューヨーク市のアダムス市長も声明で「基本的人権に対する冒涜(ぼうとく)だ」と非難した。「女性らを、生殖に関して束縛するものとしか言い様がない」と糾弾。「最高裁の判断は、大多数の米国人の意見を無視し、州政府が女性の体や選択、自由を制限するのを支援するものだ」とも加えた。
一方、テキサス州のアボット知事は「テキサスは生命を尊重する州だ」と最高裁の判断を歓迎するコメントを公表した。保守層が多い同州では2021年成立の州法に従い、最高裁判決から30日後に中絶が禁止となる見通し。中絶を実施した医師は終身刑となる可能性もある。

コメントをお書きください