矢野龍(24) 長期計画 世界一の森林会社掲げて 潜在力引き出す大目標が必要

住友林業は長い時間をかけて育つ木を相手にしているので、おのずと社風もおっとりしているところがある。一面、美風なのだが、反面、ぬるま湯につかって進取の気性に欠けているとも言える。

 

住友金属鉱山から来た3代目社長の山崎完(ひろし)さんも、海外出張の折々などに、海外の同業の先進的な製材設備などを見て、彼我の差に不満を漏らすことがあった。

僕が社長時代の後半、2007年に、住友林業としては初めて長期経営計画を作ったのには、そんな旧来の社風を改革したいという意図があった。細かな内容はともかくとして、計画を「プロジェクト・スピード」と銘打ったところが肝であった。

なかで強調したつもりなのは、一つはグローバルな会社になっていくのだという会社の方向性だ。住友林業は木材商社事業と住宅事業が大きな柱だが、国内の需要を基盤としていて、それでは長期的な成長が見込めなかった。我々は国際企業なのだと、このあたりで社員の心持ちを変える必要があったのだ。

もう一つは当事者意識だ。会社は結局のところ人間集団の営みである。トップが当事者意識を持っているのは当然だが、社員が上から言われたことだけをやっている会社は弱い。それぞれの事業部門の長に、これからどうするのかを自分の頭で考えてもらい、計画に盛り込んだ。

収益目標は売上高1兆6000億円、経常利益800億円という、当時からするとずいぶん過大な数字を挙げた。「世界一の森林会社」というスローガンも掲げた。証券アナリストからは、「何をもって世界一と言うのか」と担当者が突っ込まれたらしい。

僕は当時もそう考えたし今もそう思うのだが、現状を踏まえて作る中期計画に加えてあえて長期計画を作る意味は、非連続の、高い目標を立てるところにあると思う。

何をもって世界一かという厳密な問いにさほど意味はない。目標を掲げてトップがそれにこだわって旗を振ると、社員は、ではどうすればそれを達成できるのかと考えて、新しい知恵や試みがおのずと出てくるのだ。会社を刺激し、潜在的な力を引き出すところに大目標の意義はある。

僕は会長時代、リーマン・ショックが落ち着いて再び海外の住宅事業に力を入れ始めた12、13年頃(ごろ)、幹部を集めた定期的な会議などで、「10年後には経常利益の半分を海外で稼ぐ」と言った。

当時はキツネにつままれたような顔をしている人も多かったが、米国やオーストラリアで地に足の着いた買収を重ねて、いまや7割を海外が稼ぐようになったのは前の回で書いた通りだ。経常利益も1000億円を超えた。

今から4年前のこと。同じく会長時代に、僕が後を託した市川晃社長(当時)が、四国の別子での住友林業の創業から350年にあたる2041年に、木造で高さ350メートルのビルを作るという構想を打ち出したいと言ったときは、一も二もなく賛成した。

驚くような話なので、ゼネコンなど社外のビル建築の専門家から、そんなことができるのですかと聞かれることもあるが、だからいいのである。

あと20年ほどもあるではないか。住友林業はそれだけの技術を練り上げ、木造の高層ビルを建てる姿勢でいる。経営陣も技術研究所も真剣に取り組んで、今も日々課題を一つ一つ解決しているところだ。

(住友林業最高顧問)