https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62057740V20C22A6MM8000/
副業を制限する場合はその理由を含めて開示するよう促す。働く人は勤め先を選ぶときに、副業のしやすさを判断材料にできるようになる。副業を認める企業は増えつつあるが、大企業ほど慎重な傾向があり、情報を開示してもらうことでさらなる普及を目指す。働き方の多様化につながり、雇用の流動化の後押しにもなる。
副業や兼業について定めた厚労省の指針を7月に改定する。罰則などの強制力はなく、国から企業側への要請の位置づけとなる。経団連といった経済団体とも連携することで、副業禁止の比率が高い大企業などに指針に基づいた対応を求める。
厚労省の指針はすべての企業を対象に原則、副業を認めるよう促している。企業には副業を認めると自社の業務がおろそかになったり、ノウハウや信用が副業に使われたりすることへの懸念がある。
現在の指針では(1)労働者の安全(2)業務秘密の保持(3)業務上の競合回避(4)就労先の名誉や信用――の4点のいずれかを妨げる場合、企業は副業を禁止または制限できると定めている。
厚労省は指針を改定し、副業についての姿勢や容認する条件などの開示を企業に要請する。副業の可否は既に就業規則で示している企業も多いが、ホームページなどで公開し、外部の人や投資家などにも分かるようにする。労働政策審議会(厚労相の諮問機関)での議論を経て正式に決める。
政府は副業の普及が成長分野への人材移動につながるとみる。キャリアアップ支援などに3年で4000億円を投じ、必要なスキルを身につけるのを後押しする。
クラウドソーシングのランサーズによると、常時雇用先とは別に副業を持ったり、雇用形態に関係なく2社以上の企業と契約する兼業の形で働いたりする国内労働者数は2021年の推計で812万人だった。前年比で15%増え、労働力人口の1割を占める。
副業や兼業でIT(情報技術)などの新たなスキルを身につける人も多い。自宅などでのテレワークが増え、もともとの勤め先以外の仕事も手掛けやすくなった。企業側にとっても、副業をする従業員が社内にないスキルやノウハウを身につければ、自社の成長や新規事業に役立てられる可能性がある。
東大の柳川範之教授は「情報開示で予見可能性が高まれば、労働者にとって副業の機会は増える。どこまでの副業なら問題ないかの線引きが重要になる」と話す。
欧米では多様な働き方の手段として副業が広がっている。ドイツや英国では競合企業での勤務などを除き、副業への制限は認められない。労働市場の流動性の高い米国でも副業への法的規制はなく、原則自由とされる。
21年のパーソル総合研究所の調査では、日本では正社員の副業を全面的に容認する企業は23.7%、条件付きで容認する企業は31.3%だった。最近ではキリンホールディングスや三菱地所、IHIなど大手でも副業を認める動きが相次ぐ。
厚労省は副業を巡るセーフティーネット(安全網)作りも進めてきた。20年9月には働く人が本業と副業それぞれの勤め先に残業時間を申告するルールを定めた。長時間労働を避ける狙いがある。
ユニ・チャームは午前0時以降の副業を平日・休日問わず禁止し、四半期ごとの上司との面談で副業の進捗や健康状況を確認している。カルビーは雇用契約で副業する社員には副業先での勤務表の提出も求めている。

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