住宅ローン、返済負担減らす 繰り上げ、将来の家計考慮

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62016200U2A620C2PPK000/

 

金利上昇の影響を抑える手段の一つが、残高の一部を繰り上げ返済すること。ただ、繰り上げ返済をする際には注意点もある。

 

国土交通省の住宅市場動向調査によると、住宅を購入した人が借入金で調達した平均額は増加傾向にある。2017年度は分譲マンションを購入した人が約2400万円、戸建て住宅が約2800万円だったが、21年度にはそれぞれ約3000万円、約3400万円に増えた。住宅価格の上昇と低金利が続く中で、より借り入れに依存して住宅を購入するようになっているとみられる。

 

住宅ローンの金利には変動型、全期間固定型、固定期間選択型といった種類がある。現在、主流となっているのは変動型だ。住宅金融支援機構の調査(21年10月)によると、住宅ローン利用者のうち67%が変動型だ。多くの金融機関は日銀の金融政策の影響を受ける短期プライムレートを手掛かりに変動型の金利を設定する。金利水準は歴史的に低く、年0.5%を切る銀行も目立つ。全期間固定に比べ、金利水準が低く、目先の返済額は抑えられる。

 

○   ○

 

変動型の金利は半年ごとに見直す仕組みだ。今後、金利が上昇すると支払う利息が増え、総返済額が膨らむため、金利上昇はリスクといえる。変動型でローンを組む場合は、ある程度金利が上がることも想定して返済計画を立てるのが原則だ。

金利上昇のリスクを抑える手段の一つが繰り上げ返済だ。元本の一部を前倒しで返すことで、将来払う予定だった利息を減らすことができる。「住宅購入時に金利の低い変動型で多めに借り、繰り上げ返済を活用する前提の人もいる」(大手銀行)という。

繰り上げ返済には主に2つの方法がある。毎月の返済額は変えず、返済期間を短くする「返済期間短縮型」と、返済期間は変わらず毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」だ。

返済期間短縮型は繰り上げ返済した額に相当する元金を先に返す形になり、その期間の利息を払わずに済む。毎月の返済額が一定となる元利均等返済の住宅ローンの場合、返済当初は毎月の返済額に占める元本の割合は小さく、利息の割合が大きい。ローン返済の早い段階で繰り上げ返済をすれば、支払う利息を減らす効果が大きくなる。

返済額軽減型は繰り上げ返済した金額を、残りの期間全体に均等に割り振る形になる。毎月の元金の返済が少しずつ減り、その分支払利息も抑えられる。返済する総額を減らす効果は期間短縮型に劣るが、毎月の返済額を抑える効果がある。

繰り上げ返済は基本的には利用者の都合でいつでもできる。最低額は1万円からが一般的だが、1円からできる金融機関もある。手続きをすると早ければ翌月からの返済額や返済期間に反映される。

インターネット経由での手続きなら毎月数回までは手数料がかからない金融機関は多い。住信SBIネット銀行のように1カ月に何度繰り上げ返済をしても手数料がかからない銀行もある。手続きをする際には、繰り上げ返済後の毎月の返済額や残りの返済期間を確認できるのが一般的だ。

繰り上げ返済をすれば確実に残債は減る。そのため積極的に実行したいと考える人もいるだろう。住宅ローンの利息を減らすことだけを考えれば、繰り上げ返済はしたほうがよい。ただ、家計全体を考えると、単純に繰り上げを急ぐことがプラスになるとは限らない点には注意が必要だ。

 

○   ○

 

一般に住宅ローンの繰り上げ返済は住宅ローン減税の期限が切れるタイミングで多くなるとされる。住宅ローン減税では一定額までの年末のローン残高の0.7%(22年に取得した場合)を最長13年にわたって所得税と住民税から差し引ける。減税のある期間はローン残高を減らさずに恩恵を大きくして貯蓄を優先。減税効果がなくなった後で繰り上げ返済に充当するという考え方だ。

住宅ローンアドバイザーの淡河範明氏は繰り上げ返済について「将来の家計について検討し、余裕資金を充てるべきだ」と指摘する。よくある失敗が繰り上げ返済をした結果、預貯金を減らしすぎるケース。本来、失業や収入減少に備えて6カ月分程度の生活費を預貯金で確保しておくべきだが、それを下回ると、万一の時にお金が足りなくなる可能性がある。

子どもが高校や大学への進学を控えている家庭では、将来、教育費などの支出が膨らみ、現在よりも家計に余裕がなくなることが多い。「繰り上げ返済で預貯金を減らした結果、借金は少ない一方で貯蓄も少なくなるよりは、借金も貯蓄も多い方が安全性が高いともいえる」(ファイナンシャルプランナーの井上光章氏)。家計の想定外の事態を乗り切れるよう貯蓄を多く確保しておくのも必要だ。

ひとたび期間短縮型の繰り上げ返済をして返済期間を短縮すると、多くの銀行では再び延ばすのが難しいことも知っておきたい。淡河氏は「変動型ローンの利用者で金利上昇が心配なら、固定金利型のローンに借り換えるのも一案」と指摘する。変動金利より金利水準は高くなるが、固定型の金利も歴史的にみれば低い水準にとどまる。現在のローンの一部を切り替える方法もある。