https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62015300U2A620C2PPN000/
区役所から先日届いた「介護保険料納入通知書」をみて驚いた。金額が年11万7240円と記載され、これまで給与天引きだった約3万円から大幅に増えていたからだ。
介護保険制度は40歳以上から加入対象となり、保険料を納める必要がある。「65歳から金額が増え、会社員は3~4倍程度に跳ね上がるケースが珍しくない」と社会保険労務士の山本礼子氏は話す。被保険者の種別が第2号から第1号に切り替わり、計算方法や納め方が大きく変わるためだ。
64歳までの第2号被保険者の介護保険料は加入する医療保険によって異なる。例えば職場の健康保険では各組合が設定した料率を月収(標準報酬月額)に掛け、半分を毎月の給与などから差し引く。地域の国民健康保険では世帯の人数や所得などに応じて市区町村が決めた保険料を医療保険と合わせ、世帯主が納める。
65歳からは第1号被保険者となり、介護保険料は住んでいる場所によって異なる。市区町村が保険料を決めるようになるからだ。市区町村は居住する要介護・要支援の人数などからそれぞれの自治体で必要な介護保険サービスの総費用を出し、総費用を賄えるように保険料の基準額を算出する。
さらに基準額を基に対象者の所得や世帯の課税状況に応じて十数段階などに細分化し、各段階の保険料を決める仕組みだ。介護保険サービスの総費用を考慮するのは、第1号被保険者は介護保険を利用したり、利用する可能性が第2号被保険者に比べ大きかったりするためとの見方もある。
2021~23年度の基準額(月額)の全国平均は6014円と、介護保険制度が始まった00年度に比べ2倍強となった。市区町村ごとにみると3000円台から9000円台まで様々だが、要介護・要支援の人が多い自治体ほど基準額は高くなりやすい。
65歳からの介護保険料は原則年金から差し引かれる(特別徴収)。ただ65歳になって実際に年金天引きが始まるのは、半年から1年後。それまでは納付書などで納めることになる。
働きながら65歳を迎える会社員は増えている。それまで月々の介護保険料は給与天引きで、健康保険料と合わせて徴収されていたので「納めていた」という実感に乏しい人は多い。さらに健康保険から切り離されることで事業主の2分の1負担もなくなり、全額自分で払わなければならない。「金額が大きく増え、介護保険料の存在と負担の大きさに気付く」と社会保険労務士の永山悦子氏は話す。
前年の所得が基準になるので、会社を辞めるなどで収入が減れば翌年度の介護保険料は下がる。だが「65歳以降もそれまでと同様に働き続ければ、原則下がらない」(永山氏)。逆に65歳からの年金を受け取るようになれば、所得が増えてさらに保険料は上がる可能性がある。冒頭のAさんの場合、64歳までは特別支給の老齢厚生年金の年120万円だったが、65歳からの年金は年200万円に増える。来年度の保険料は年13万2360円に上がる見込みだという。
夫婦など世帯の介護保険料はどうか。65歳になっても会社勤めを続け、65歳未満の配偶者がいるならその分の保険料はこれまで通りかからない。その後配偶者も65歳に達すれば第1号被保険者となり、自分の保険料が発生する。それまで被扶養者だったので所得は多くないだろうが、「2人合計の保険料が年間20万円近くになることもある」(山本氏)。
65歳からの老齢年金の受け取りを66歳以降に繰り下げると年金天引きの介護保険料はどうなるか。「繰り下げ待機している間は納付書や口座振替で納めることになる」と自身も70歳まで年金を繰り下げた社会保険労務士の沢木明氏は説明する。保険料は年金が年額18万円以上ある人は年金からの天引きが法律で決められている。納め方を選択することはできない。生計困難や災害などの特別な事情を除き、減額などの措置はない。
高齢化の進展で介護が必要な人は増えており、介護保険の主要な財源である保険料は今後も上昇が予想される。働き続けるなら、その分の負担増も見込んで家計を運営する必要がありそうだ。一方で長く働けば、給与収入などが老後の暮らしを潤してくれるかもしれない。年金受給額の上乗せや健保に加入し続けることができるといったメリットがあることも知っておきたい。(土井誠司)

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