トークン経済圏じわり 「投機の場」脱却できるか

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1360N0T10C22A6000000

不動産や社債などを、ブロックチェーン(分散型台帳)を使って「トークン」という形で小口化するセキュリティー・トークン・オファリング(STO)だ。「トークン・エコノミー」が広がりつつある。

 

「個人からの引き合いは強い」。三井物産デジタル・アセットマネジメントの三村晋司氏は手応えを感じている。手掛けるのはマンションや倉庫などの不動産のSTOだ。6月上旬には都内マンション3棟すべてのSTOの募集が1週間で完売した。

 

2020年の金融商品取引法改正を機に日本でSTOが広がった。不動産や社債を小口化する例が多く不動産情報サービスなどを手掛けるLIFULLや丸井グループがトークンを発行した。

STOは資産を小口化し値段を下げて流通できる利点がある。発行の手間やコストも社債などに比べ軽い。不動産STOは物件評価額に連動し、不動産投資信託(REIT)に比べ価格は安定的という。不動産や未公開株、社債のSTOなど市場は急拡大している。

米セキュリティー・トークン・グループによると、6月24日時点でSTO市場の時価総額は世界で約135億ドル(約1兆8200億円)だ。21年12月に比べ15倍近くへと膨らんだ。

日本企業でも不動産開発のトーセイが横浜市のビルのトークンをADDXに上場するなど活用。同トークンは東海東京証券が国内の投資家に販売している。

欧州でデジタル資産管理を手掛けるフィノアは27年までに世界の国内総生産(GDP)の10%がトークン化され、セキュリティー・トークンの市場は24兆ドルになると予測する。STOに詳しいHash Dashの三好美佐子氏は「上場よりハードルが低く流動性もある点が未公開株などのSTOの拡大につながっている」と指摘する。

課題も少なくない。トークンの取引でイーサリアムなどの仮想通貨が使われる場合、価格が仮想通貨の値動きに振られやすい傾向がある。

典型がアートや音楽の保有証明などに使われるNFT(非代替性トークン)だ。世界最大のNFT取引市場、オープンシーの6月の1日あたりの取引高(イーサリアム基盤)は5月比で70%減少した。一部がイーサリアムで取引されているSTOにも売りが波及し、6月のSTOの時価総額は5月比で17%減った。

日本では知名度も課題だ。市場は約100億円と世界の1%にも満たないとされる。Hash Dashの三好氏は「米国などと異なり、日本ではトークンの売買は限られている。自由に売買できるような仕組みが必要」と指摘する。

潜在力はある。実は日本は世界有数のトークン・エコノミー国家だ。そのトークンとはポイントやマイレージ。決済などで付与されるポイントは通貨同様に買い物などで使える、通貨を代替する「トークン」と言える。

野村総合研究所によればポイントやマイレージの市場は20年度に1兆4千億円を突破。マイレージは企業が自らの経済圏をつくるのに使われてきたが、ブロックチェーン上で発行されるトークンは個人が自由に直接取引するのに使われる。

仮想通貨などブロックチェーンによる新たな市場が立ち上がっている。その行き先は個人があらゆる資産を安く手軽に売買できる市場か、投機の舞台か。未来像はこれから見えてくる。