https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61924400R20C22A6EN8000/
資源高にねざすコストプッシュ型のインフレは景気の下押し圧力になるとして緩和の重要性を訴える。だが緩和が円安を生み、インフレに拍車をかけるとの見方は根強い。緩和修正を催促する海外勢の円売りや債券売りの圧力はくすぶり続ける。
21日の外国為替市場で円相場は一時1ドル=136円台に下落した。日銀の金融緩和も円売り要因となっている。
「金融を引き締めると、経済成長も大きなマイナスになるおそれがある」。日銀の黒田東彦総裁は金融緩和の維持を決めた17日の金融政策決定会合後、こう呼びかけた。
今の物価上昇は海外発の資源高が貿易の有利不利を示す「交易条件」の悪化を通じて所得の海外流出をもたらし「むしろ景気に対する下押し圧力になっている」という。
冷ややかな視線の背景には、日銀が景気下支えのために続ける金融緩和が円安の加速を生み出し、かえって「景気の下押し圧力」である輸入インフレに拍車をかけてしまうという見方がある。
日銀はこの説を否定する。今の日本で、輸入インフレは主に交易条件の悪化を通じて景気の逆風になる。黒田氏は6月の講演で「交易条件悪化の主因は、あくまでもドル建ての資源価格の上昇であって円安ではない」と強調した。「ドル建ての資源価格の上昇は輸入物価だけを上昇させるが、円安は輸出物価と輸入物価をともに押し上げるため、交易条件に対しおおむね中立」との理由だ。
交易条件の悪化の影響を和らげるため、円安を覚悟してでも金利を低く抑える政策判断は成り立つ。ただし、これはマクロ経済の話。買い物で値上げを実感すれば「円安のせい」「日銀が悪い」と思う消費者も多いはずだ。マクロの経済分析とミクロの生活実感。両者の隔たりは大きい。
円安を含む物価高問題は7月の参院選の争点に浮上する。与党内ではアベノミクスを通じた「黒田日銀の生みの親」である安倍晋三元首相の存在感がなお大きく、緩和維持を巡る政府・日銀の一枚岩は保たれてはいる。
それでも日銀が金融緩和への理解を広く得るには緩和効果をもっとわかりやすく説明し、政府とも協力して円安対応や債券市場の流動性対策を練る必要がある。そうでないと円安は政治問題の火種としてくすぶり続け、市場の日銀に対する挑戦も終わらないだろう。


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