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億を稼ぐ人の素顔 多彩な経歴、投資に深い見識 投資つれづれ草

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD250NA0V20C22A3000000

2016年から2年間あまりマネー雑誌の仕事をしていたときに、億を稼ぐ腕利きの個人投資家の話を聞く機会が多かった。取材力のある同僚であった副編集長(現編集長)のナカノメが人脈を切り開いたので、その恩恵を受けた。

変わったハンドルネームの人ばかりだから、ゆるきゃらのような、なにか社会性に乏しく軽い人のようなイメージを持たれているかもしれないが、そんなことはなく、その素顔はまともと言っては変だけれども、投資について、経験に基づく深い見識を持つ人たちだ。

学歴や職歴が様々

何冊か本を書いている奥山月仁さん(=エナフンさん)は、「割安成長株で勝つ エナフン流バイ&ホールド」(日経BP)の巻末の略歴によると、大阪大学の経済学部に入学し、かつて証券行政のご意見番のようであった有名な故・蝋山昌一教授からゼミで証券理論を学んだ。現在は大手企業の社員として堅実なサラリーマン生活を営んでいるという。

エナフンさんのように大きな会社のサラリーマンもいれば、中堅の上場会社の社員という人もいる。医師など医療関係の人もいるし、ビル清掃の仕事をしていて必死で投資で財産を作ったという人や、お笑い芸人、ネットゲームにはまっていた人、職歴のない人など、要はほんとうにいろいろだ。

何の仕事をしてきた人だったか忘れてしまったが、リーマン・ショックのときに、こんな買い場は幾度も訪れないと、家中の金券や金目のものを全部売り払って投資資金を作ったという人の話も聞いたことがあった。奥さんもよくそんなことを許したものだと驚いた。

少し話がずれたが、こういう人たちの共通点はやはり、株式投資が好きだということだ。

いろいろな背景を持つ人たちが、個人投資家として腕を競って、一匹オオカミ的に、群れずに、しかし一目置き合っているようでもあって、一種のすがすがしさを感じることもあった。どこの大学を出たとかどんな会社にいるとか、どんな仕事をしていたかとか、互いにあまり聞かないし、聞いたところで関係ないのだ。

それまでよく取材した相場や投資に関係する業界の人たちは、会社の看板などもあるせいだろうか、その頃は、個人投資家の話題をだすとちょっと軽く見ているふうがのぞくことがあったが、投資についての見識が、業界の人たちに劣っているようでもなかった。

あと、住んでいる場所もいろいろだ。もちろん東京や大阪の人もいるが、四国だったり岐阜だったりの地方に住んでいる人もいる。東北や九州の人には会ったことがないが、探せばやっぱりいるのだろう。

インターネットが発達して、どこに住んでいても情報は手に入るからなのか、もともと有利不利はあまりなかったのかよくわからないが、とにかく、まっとうに投資をして利益をあげることと、住んでいる場所との相関はあまりないと感じた。

ぜいたくに関心薄く

それから、いかにも億万長者という人はいなかった。

高級品を身につけていたりするわけではなく、見てくれは普通のスーツを着たサラリーマンだったり、スーパーに買い物にきているそのへんのお父さんのようだったりする。資料がたくさん入った、くたびれたショルダーバッグを持って、大昔の予備校生のような雰囲気を出している人もいた。

これはなぜかというと、株で稼いだお金でぜいたくをすることにはあまり関心がなく、もうかった資金もほとんどを再投資につぎ込んで、自分の資産をいくら膨らませていくかに精力をそそいでいるからだ。

100億円以上の資産を築いたという人も、車はレクサスに乗っているけれど、ぜいたくはそれくらいで普通の生活をしていると言っていた。

また、大きな資産を築いている人や、投資に造詣が深いと思われる人ほど、物腰が謙虚であった印象もある。

腕の立つひとほど謙虚

しかしこれも、めんどくさいからくだらない質問には答えないというのではなく、実感から来る言葉のようだった。この人は短期のトレーディングの技術もあるように思われ、中長期の成長株投資と短期のモメンタム投資の両方で、聞けば簡単だが、しかし実行は難しいようなことを、着実にやっているように思われた。「チャンスがいざ来たときに大きく勝つか小さく勝つのかは、やっぱり経験の差が影響するとは思います」とのことだった。

それから、これは前にも書いたが、相場は分からないと堂々と言うのも、腕の立つ個人投資家に共通している。

個人的な話になるが、昔の友人などと話していると、それだけいろいろな投資家の話を聞いていると、退職したら株式投資で大もうけできそうでいいねと言われることがあるのだが、そんなことはないと思う。

億の資産を築くのはそれなりの時間がかかるようだし、勝負どころで家財を売り払うようなとてもまねができないことをしてきた人もいる。また、大きな額を投資しなければ資産が億を超えることはない。それにそもそも経験のある人が聞けば深く響く話も、経験のない人間には言葉づらだけで、理解は浅いに違いないと思うのだ。真の理解に至るとしたら、実際の投資で試行錯誤を経てからだろう。

億超え、早く始めるのが吉

それはともかく、エナフンさんは投資で数億円の資産を築いたが、投資ブロガーもやっていて、それに書く用に一部の資金を運用している。冒頭にあげた本の略歴のなかにそんなことが書いてあるのだが、それによると、100万円の資金が13年で2842万円余になったそうだ。相当の好成績だ。

これは投資の仕方を知っている人がやるとやはり資産は増えていくことを示している。しかしそういう腕利きでも、100万円の資金を1億円以上にもっていくことは、10数年ではできないのだともいえる。

エナフンさんは高校2年生から株式投資を始め、投資歴は約30年だそうだ。私のような投資の経験のない人間が、退職してから実技を勉強してもたかが知れていて、どんなに身を入れてやったとしても、思わぬ運に恵まれたとしても、13年かけて300万円くらいになればかなりの上出来ではないか。私の年齢はそのときは75歳近くだ。

元手の資金がいくらかにもよるが、してみると投資は早く始めたほうがよさそうだ。100万円も、最初の10年では200万~300万円がせいぜいかもしれないが、次の10年で400万~900万円になり、次の10年には1000万円以上にもなるかもしれない。資産が数百万円増えても100年近い人生の資金計画へのプラスは限られるが、1000万円増えればだいぶ景色も変わる。それには20~30年の時間をみたほうがいいのではないか。


実るほどこうべを垂れるのたぐいで余裕があるのだろうか。こちらが聞いたことに淡々と答える感じで、くだんの100億円以上の資産を築いた人は「僕はそんなに難しいことはしていないと思いますよ」などと言って、ちょっとつかみどころがなくて困った。