検討会は近く報告書を公表し、国は今後、具体的な制度設計を進める。
ビルの防火対策は建築基準法に盛り込まれ、大規模火災が発生するたびに改正を重ね、規制強化されてきた経緯がある。ただ、法改正前に建てられたビルは新しい基準に適合しなくても違法ではなく、既存不適格としてそのまま使用が認められてきた。
事件のビルも1970年建築で、外につながる階段が1つしか無かった。6階以上の建物に原則、非常階段を複数設置する「2方向避難」を義務づけた74年の建基法改正は適用されなかった。
国土交通省と総務省消防庁などは事件を受け、安全対策の強化に向けた検討会を設置。議題となったのが、事件のビルと同じ既存不適格の防火対策の強化だった。
既存不適格のビルの防火対策のハードルとなってきたのが、改修時に建基法の基準に合わない箇所全てを直す必要があるとする現行のルールだ。ほぼ建て替えに相当するような大規模な工事が必要な場合もあり、費用が多額になる。老朽ビルはテナント家賃も新しいビルより低くなりがちで、資金に余力の乏しいオーナーも少なくない。
検討会は今回の改善策で、防火対策を行う箇所のみの改修を認めるべきとの方向性を示した。階段の増設や避難に有効なバルコニーの設置など、部分的な防火対策を優先できるようになる。
ただ、国交省の担当者によると「そもそもスペースや費用の問題で階段の増設が難しいビルは少なくない」という。
次善の策として打ち出したのが、ビル内での退避スペースの確保だ。消防隊が到着するまでの間、一時的に安全が保たれるようビル内に扉を設けるなどして退避スペースを作ることを推奨する。
国は今回の対策などをまとめたガイドラインを策定し、ビルの所有者らに取り組みを促す予定だ。ただ防火対策の義務化は、費用面などで所有者の負担が大きく現実的でないとして見送った。
京都大の西野智研准教授(建築火災安全工学)は「現行基準に合わせるのが理想だが、現実的には難しい建物が多い。ビル所有者は安全性が低い建物を提供していることを認識した上で少しずつでも別の防火対策を取るなどして安全性を高めるべきだ。退避スペース確保や避難器具購入の補助など公的な支援で実効性を高めるのも一手」とみる。
「ハードだけでなく、初期消火や一時退避の方法を確認するなどソフト面の対応も重ねて被害軽減に努める必要がある」と指摘する。

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