https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61887260Q2A620C2EE9000
他の大手各社もここ数年で取り組みを強化しており、大手証券グループ5社が出そろった。電子的に発行するデジタル証券は小口化しやすく投資家層を拡大できる。来年春には流通市場も創設される見通しで、「貯蓄から投資」の起爆剤として期待が集まる。22年度はデジタル証券の元年となりそうだ。
デジタル証券はセキュリティー・トークンと呼ばれ、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使って「有価証券とみなされる権利」が電子的に発行される。20年に施行した改正金融商品取引法で解禁された。米国を中心に広がりつつあり、業界では25年までに世界30兆円市場に成長するとの予測もある。
デジタル証券を使えば事業者は迅速に資金調達でき、小口化で投資家層を拡大できる。流動性が低くて個人投資家が従来は投資しにくかった個別不動産や非上場株式などの資産に投資しやすくなる。大手証券の担当者は「ラインアップが増えるので取り扱わない選択肢はない」と話す。
みずほ証券はこのほど、野村ホールディングス(HD)やSBIHDが出資する「BOOSTRY(ブーストリー、東京・千代田)」が提供するデジタル証券の発行システムに参加を決めた。私募不動産投資信託(REIT)などに力を入れてきたみずほは商業ビルやオフィスビル、住宅などを組み込んだ不動産ファンドで第1号案件の取り扱いをめざす。
例えば高級マンションは一般に、1戸または1棟に投資することが多いが、ブロックチェーンなら所有権を細分化でき、1口数十万円程度で投資家のもとに届く。発行から決済までほぼ全てがブロックチェーン上で自動で行われるため、約定から通常は数営業日かかる決済が即時にでき、配当も自動で付与される。
足元では不動産に投資できる数十億円規模のデジタル証券の発行が相次いでいる。SBI証券は6月に三菱UFJ信託銀行の基盤を利用して東京都内の住宅を裏付けとするデジタル証券を販売。7年の運用期間の間、賃料から一定の配当を受け取れるしくみだったが、すでに完売したという。
ブロックチェーンを使うことで資金を投じた顧客との接点がつくれるのも魅力だ。マーケティングに生かしたり、コミュニティーをつくったりできる。SBI証券が21年に公募したデジタル証券では保有額に応じて暗号資産(仮想通貨)を特典として付与したが、これも個人にアクセスできるブロックチェーンならではの取り組みだ。
社債でも発行実績がある。野村証券とLINE証券は投資運用会社スパークス・グループの公募引き受け型デジタル社債の発行を5月末に発表した。ほかにプロジェクトファイナンスや航空機などこれまで個人投資家になじみがなかった商品での需要も見込まれている。
世界的にはデジタル証券市場は18~19年に立ち上がったとされる。規制や業界ルールがなく詐欺の温床になったICO(仮想通貨を使った資金調達)への反省から、規制に準拠しながら資産を証券化する市場として注目される。発行事例は北米に次いでスイスが多く、英国やドイツ、アラブ首長国連邦(UAE)などでも発行が増え始めている。
米国では発行と流通市場の整備が同時並行で進んでいるのが特徴だ。米国ではセキュリタイズ社が米証券取引委員会(SEC)に登録した上で、デジタル証券の発行・流通サービスを手がけるほかに、新興を含めて10近い流通市場運営者がいる。
日本のデジタル証券はまだ相対で取引が行われており、定着には流通市場の整備が急務だ。SBIや三井住友フィナンシャルグループが出資する私設取引システムの運営会社「大阪デジタルエクスチェンジ」では、23年春をめどにデジタル証券の取り扱いを始める予定だ。こうした取り組みが流通拡大の試金石となる。
一方、現在はブーストリーや三菱UFJ信託が提供する「プログマ」など複数の発行基盤があり、業界で活発な取引を進めるにはこうしたプラットフォーム間の柔軟な連携も課題だ。加えて、「実績が増えないと思い切った投資をしにくい」(大手証券)といった声もある。発行実績の積み上げで個人投資家への認知度をあげていくことも普及の条件となる。


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