(社説)円安の利点を生かせる日本経済に

円安に歯止めがかからない。一時1ドル=135円台半ばまで下がり、24年ぶりの安値をつけた。米連邦準備理事会が利上げを実施したのに対し、日銀は緩和継続を決め、金利差の面からも当面は円安基調が続くだろう。

これにどう対応すべきか。円安による輸入物価の高騰で幅広い品目が値上がりし、購買力が毀損する痛手は大きいが、円安には円安の利点もある。円安の風をうまく生かす政策や経営が重要になる。

即効性がありそうなのは、海外からの観光客や投資の誘致だ。政府はインバウンドについて外国人観光客は団体旅行しか認めないなどの制約を課しているが、こんな不自然な縛りのある国はほぼない。政府は一日も早く外国人の受け入れを本格化すべきだ。

外からの直接投資が増える効果にも期待したい。台湾の半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で新工場建設を決めたのに続き、米マイクロン・テクノロジーも広島工場で最先端メモリーの量産を近く始める。

日本政府の補助金が両社の投資の呼び水になったが、日本事業が軌道に乗れば、追加投資につながる循環が期待できる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、労働者の賃金やオフィスの賃貸料などのビジネスコストで、例えば名古屋市や福岡市は既にソウルとほぼ同じか場合によっては割安だ。

高コストを嫌って海外に出た日本企業を呼び戻し、あるいは外資の誘致に取り組めば、特徴ある街づくりにつながるだろう。

インバウンドや外資効果で地域が潤えば、賃上げも実現しやすい。資本の流入に伴い新たな経営手法や技術が日本に定着すれば、それが経済の新陳代謝を加速する。開かれた姿勢こそ成長のカギだ。

円安効果のかつての「主役」である輸出増にも期待したい。日本の円ベースの輸出額は2007年の約84兆円がピークで、その後は一進一退だ。品目別でみても自動車や鉄鋼などが上位を占め、昭和時代と代わり映えしない。

これに代わる新たな主役を育てたい。例えば経済安全保障が注目されるなかで、NECは「5G」の通信設備を欧州で受注した。アンモニア混燃の火力発電設備など「日本ならでは」の環境技術の強みも追求したい。円安のマイナスを抑え、その恩恵を最大限引き出す。そんなしたたかさが必要だ。