https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61795140X10C22A6BE0P00/
そんな超高齢化社会を迎えて75歳で自分の生死を選択可能な制度が施行された近未来社会を背景に、高齢女性や行政に携わる若者の姿を通して、生きることの価値を問いかける。
映画の冒頭、ピアノ曲が流れる建物内、ぼやけた画面が次第に焦点を結ぶと猟銃を持った男と転がった車椅子、男の自死が描かれる。そして老齢介護が社会を圧迫していること、「プラン75」という社会制度が国会で可決されたニュースから、物語の社会的背景が端的に示される。
映画は3人の人物に焦点を当てる。ホテルの客室清掃の仕事をしながら団地で孤独に暮らす78歳になるミチ(倍賞千恵子)。市役所の「プラン75」の窓口で働くヒロム(磯村勇斗)。それに介護施設で働くフィリピン人のマリア(ステファニー・アリアン)。
高齢者、若者、外国人という三者三様の立場から交錯しながら物語を紡ぐが、物語が展開するのは職場で高齢の同僚が倒れたことでミチが仕事を失い、市役所の窓口に相談にきた伯父とヒロムが久々に再会し、また幼い娘の手術費用を工面するためマリアが高給を得る「プラン75」の施設に転職してからだ。
仕事のないミチは「プラン75」に申請を決意し、担当の若い瑶子と親しくなる。ヒロムは伯父の申請を知って受け入れる。マリアは施設で死を迎えた人たちの遺品処理の仕事をする。そしてある日、ミチとヒロムの伯父は施設に向かうが……。
高齢者が生きてきた人生にはそれぞれ意義がある。ミチは瑶子に自分の人生を語り、ヒロムは伯父と話して彼の過去を知る。そんな彼らの人生に思いをはせるヒロムや瑶子の姿から生きることへの問いが浮き上がって心に響く。
演出・脚本は早川千絵監督。本作は彼女が4年前に手がけた短編を膨らませたものだ。余分な説明を省いた映像表現は新鮮であり、将来が期待される。本年度カンヌ国際映画祭で新人監督に与えられるカメラドールの特別表彰を受賞。1時間52分。
(映画評論家 村山 匡一郎)

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