https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB138ZM0T10C22A6000000
金融市場の不安を背景に、コインの価値を保つためのアルゴリズム(計算手法)が機能しなくなったためです。
ステーブルコインには幾つかの種類があり、資産を裏付けに法定通貨に連動(ペッグ)する法定通貨担保型はその一つ。例えば、ステーブルコインの中で時価総額が最も大きい「テザー」は、保有している資産を担保にドルと1対1のペッグを維持するとされています。
話題となったUSTは、コードなどを複雑に組み合わせてペッグを維持するアルゴリズム型です。韓国のテラフォームラボが開発するこのコインは、同社が発行する仮想通貨「ルナ」との取引によって対ドルでペッグできるよう設計されていました。しかし、この手のアルゴリズムは、価格安定のためには資金流入がずっと続かないといけない仕組みで、USTとドルとの価格乖離をきっかけに資金流出が発生し、大暴落したのです。
高リスク商品の需要が減少
この手のリスク性の高い商品は、相場のボラティリティー(変動率)が比較的低い時は現金性が高まり売買しやすくなる一方で、変動率が高くなれば現金性が低下し、価値が下がります。典型例が、リーマン・ショック後に消えかけた、MBS(不動産ローン担保証券)です。高値で取引された証券が、変動率が高まり需要が減退したことで事実上流動性がなくなり、紙くず同然となりました。
今回問題となった仮想通貨には詐欺的な商品も多く存在します。世界の仮想通貨の時価総額は昨年3兆ドル(約345兆円)近くあったものの、足元では約半分まで減少しました。これはリーマン・ショックを起こしたMBSの時価総額を大きく上回ります。仮想通貨の下落は、他のリスク資産に影響を及ぼす可能性が高いでしょう。金融市場全体の波乱の予兆となるかもしれません。
そもそも、足元で仮想通貨や世界株が下落しているのは、金融市場の流動性が枯渇しているからです。コロナショック後の金融緩和によって供給された過剰流動性は、様々な資産価格を押し上げ、バブル的な経済過熱を引き起こしました。投資詐欺の一種であるポンジ・スキーム(ネズミ講)の商品までが暴騰したのです。
逆に今は、世界各国の中央銀行が金融引き締めの姿勢を強め、資金供給の蛇口を締め始めています。いまだ蛇口を緩め、金融緩和策を続けている日本が引き締めに転じれば、世界でバブル崩壊が早まる可能性もあるでしょう。
世界経済を安定させるには、インフレの抑制は不可避です。しかし私は、景気後退を回避しつつ、利上げでインフレを鈍化させる「ソフトランディング(軟着陸)」は難しいと考えています。米ミシガン大学が発表した5月の消費者態度指数が10年9カ月ぶりの低水準に落ち込むなど、景気は既に減速しているからです。最悪なケースは、インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーションに見舞われることです。
私は、起きる可能性が高いのは、金融引き締めによって景気が急減速する「ハードランディング(硬着陸)」だとみています。硬着陸によってインフレからデフレに向かい、中央銀行が緩和し始めるタイミングが、もう一度リスク資産価格が上昇する転機となりそうです。年後半、もしくは来年前半がそのタイミングとなるでしょう。
日本株への資金流入に期待
一方、日本の株式市場にとっては追い風が吹いていると言えそうです。ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して、欧米がロシア要人の資産を凍結するなど、制裁を強めているからです。欧米や、欧米と対立する国に投資していた資金は、今後様々な国・地域で起こり得る地政学リスクと凍結を恐れて、逃避先を探し求めます。チャイナ・マネーやオイルマネーが日本の株や不動産に流入する可能性は高そうです。インドやベトナム、フィリピンなど成長余地が大きい国も投資先となるでしょう。
米国株については、バブルの終焉が来ていると私はみています。米国は様々な分野で世界をリードしてきましたが、製造業での覇権は既に失われています。米国が覇権を維持できているのは、ドルが基軸通貨としての地位を確立できているからですが、モノを製造しない国はいずれ衰退の一途をたどることになります。米国株を支えた世界のお金は、米国の実力以上に集まりました。米国からの資金流出が加速し、うたげの終わりを告げる日は近いかもしれません。
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

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