嵐に備える仮想通貨

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61797390X10C22A6ENI000/

 

12日に出金停止を発表した仮想通貨融資サービスの米セルシウス・ネットワークの動向が市場の不安を呼んでいる。16日時点でも預かり資産の引き出しや口座間の資金移動が凍結された状態だ。米メディアによると、同社は法律事務所と契約し、リストラ策を練り始めたという。

 

「最大で年利18%」「毎週利息を受け取れます」――。セルシウスのウェブサイトでは、仮想通貨運用の高利回りぶりが強調されている。同社は顧客から預かった仮想通貨を他の利用者に貸し出してリターンを得る。5月時点で200万人超の利用者がおり、118億ドル(約1兆5600億円)の預かり資産がある。情報は更新されていない。

米ヤルデニ・リサーチのエドワード・ヤルデニ氏は16日、セルシウスの預かり資産について「どう運用されているか情報がほとんどなく、安全網となる預金保険も存在しない」と指摘した。米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は14日、「銀行のように振る舞う仮想通貨の貸出業者もあるが、眉唾の話には注意すべきだ」と投資家に注意喚起した。

米調査会社ピッチブックのロバート・レー氏は「セルシウスのポジションは清算レベルに達している」と指摘する。「10億ドル近くを資金調達したセルシウスが破綻すれば、仮想通貨関連への投資に再考を迫る出来事になるだろう」

米南部テキサス州オースティンでは9~12日に世界最大規模の仮想通貨イベント「コンセンサス」が開かれた。2019年まではニューヨークで開いていたが、テック人材が集まるオースティンに場所を移した。気温35度を超える暑さのなか、会場は3年ぶりに対面で開催できる熱気と、くすぶる不安が交錯していた。

デジタル資産の運用を手がけるアルカのレイン・スタインバーグ最高経営責任者(CEO)は「短期的に底入れするのは難しいだろう」と相場の長期低迷を覚悟する。「我々は18年に創設し、長い冬を乗り越えてきた。この人の入り具合をみれば、人々が仮想通貨から手を引かないことはわかる」と話し、長期的な回復に自信を見せた。講演したホワイトハウス高官は、ロビー活動に熱心な参加者に取り囲まれていた。

イベントに過去に参加したある有識者は「出展ブースの規模をみると、参加者が少ないように思う」と話し、会場で変調の兆しを見極めようとしていた。ビットコイン価格は足元で大きく乱高下することもなく、じりじりと水準を切り下げている。関係者は嵐への備えに余念がない。