[FT]利上げで冷えるニュージーランド不動産 世界に先行

住宅価格の中間値、43%上昇

ニュージーランドは世界有数の不動産ブームに沸いてきた。経済コンサルティング会社センス・パートナーズによると、新型コロナウイルスの感染者数が比較的少なく資産の安全な避難先となり、この2年で住宅価格の中間値は43%上昇した。

そのため多くの市民にとって住宅は高根の花になった。住宅価格の中間値は今や年収の中間値の10倍に達している。政府と中央銀行は価格の暴落を防ぎつつ市場を冷やす方法を探している。

ニュージーランドはパンデミックの間に住宅市場で何が起きたかを映す極端な例だ。財政や金融政策立案者が景気刺激策を導入した2020年第1四半期以降、カナダやオーストラリアでも価格が急騰した。一方で賃金の伸びは緩やかだ。

世界中でインフレが進むなか、中銀や政府が景気刺激策を終え利上げを実施した場合、住宅市場や経済全体にどう影響するのか、住宅の売り手も買い手も様子をみている。

ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は21年10月、18カ月間0.25%に据え置いていた政策金利を引き上げ、金融引き締めを開始した。その後は短期間で2%に引き上げ、1年以内に4%に達する見込みだ。中銀は7%近くまで上昇したインフレを対処しようとしている。

「ニュージーランドは(異常を知らせる)炭鉱のカナリアだと言える」と首都ウェリントンにある住宅情報会社コアロジックで主席不動産エコノミストを務めるケルビン・デビッドソン氏は話した。「住宅価格が高騰するなか、インフレに対処するため利上げする中銀にとってテストケースとなる」

住宅価格変動に敏感なNZ市民

パンデミックの大半を通じ感染拡大の抑え込みに成功したニュージーランドでは他国ほど経済が減速しなかった。またニュージーランドは経済が比較的力強く成長している上、住宅価格が金融の安定にもたらすあらゆるリスクに対抗するために金融当局の目的が変化したことから、中銀は経済が過熱している兆候に真っ先に対応した。

ローン資産価値比率の高いハイリスク住宅ローンの縮小など融資条件も厳しくなっており、住宅市場は利上げの影響を強く受けている。

不動産会社バーフット・アンド・トンプソンは売上高が21年の約60%に落ち込むと予想している。「ニュージーランドの住宅価格は急落しており、今後数カ月で状況はさらに悪化するとあらゆる兆候が示している」と英調査会社キャピタル・エコノミクスのベン・ユーディ氏は話した。また同氏は住宅価格の最高値と底値の差を以前の予想の2倍の20%と予想している。

だがたとえ20%下落しても住宅価格は20年当時の水準に戻るにすぎない。ニュージーランド経済にとっての真のリスクは、住宅市場の高騰と低金利がもたらした資産を守るために家計が支出を大幅に減らすことだ。

ウェリントンのコンサルティング会社センス・パートナーズのエコノミスト、シャムビール・イークブ氏は、パンデミックの間に家計の資産が4600億ニュージーランド(NZ)ドル(約38兆6600億円)増加したと試算している。同国の21年の国内総生産(GDP)は3500億NZドルだった。

ユーディー氏は、ニュージーランドは「消費者が住宅価格により敏感な」経済の典型だと指摘した。

世界各地の中銀が利上げを行い、今後数カ月でさらなる金融引き締めが予想されるなか、他国もニュージーランドの後を追うかどうかが注目される。

不動産会社は楽観的だ。「市場が減速しても世界的に価格が下落するとは思わない。価格上昇のペースが今後2、3カ月軟化するにすぎない」と、英不動産大手ナイト・フランクのパートナーで世界の住宅調査部門を率いるケイト・エベレットアレン氏は話した。

完全に買い手市場に

エコノミストはもっと懐疑的だ。英調査会社オックスフォード・エコノミクスの主席グローバルエコノミストのイネス・マクフィー氏は、利上げで住宅ローン費用が高くなったため、この先「価格の上昇が非常に弱くなる」と予想する。またキャピタル・エコノミクスの上級経済顧問のビッキー・レッドウッド氏は英国、オーストラリア、カナダ、スウェーデンやノルウェーでも住宅価格が下落すると見ている。

ニュージーランド市民の多くに住宅購入を難しくした不動産バブルの崩壊を肯定的に捉える人もいる。イークブ氏によると住宅所有率は1950年代以降で最低となっており、同国の税収の4%は住宅扶助に充てられている。

コアロジックのコンサルタントのトバイアス・オッティングさん(29)は、パートナーと共同で購入する住宅をウェリントンで探しているが、価格を下げたくない売り手と価格の下落を待っている買い手の間でこう着状態になるのをみてきた。「現実的な状況になりつつある。今は買い手市場だ」とオッティングさんは話した。「買い手には待ち続ければいいという余裕がある」