https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61710260U2A610C2EN8000/
米国は日本のドル売りを支持しない姿勢を示唆しており、実施するなら同国の理解を得ない状況での行動になりそうだ。米国に支持されない介入は2011年にも前例があるが、これは円売りだった。円買いの場合、「弾薬」が尽きる懸念が効果をそぐかもしれない。
介入への関心が強まったきっかけは、10日に財務省、金融庁、日銀が開いた「3者会合」。最近の急速な円安を「憂慮」する声明をまとめ、「各国通貨当局と緊密な意思疎通を図りつつ、必要な場合には適切な対応をとる」とした。介入の示唆だ。
背景には、家計や企業を苦しめる輸入物価上昇の原因として、円安を軽視できなくなっている事情がありそうだ。3者会合開催の前に発表された5月輸入物価指数は前年同月比43.3%上昇。うちエネルギー・原材料などの価格自体の上昇を反映する契約通貨建ての上昇率は26.3%だった。両者の差の17%が円安に起因する部分と考えられ、全体の4割近い。この比率は徐々に上がってきており、参院選を控え政権も円売りを放置しにくくなっているようだ。
13日には円相場が一時1ドル=135円台前半に下落。約24年ぶりの安値をつけた。介入に対する注目が一段と集まる状況だが、問題は米国の反応だ。3者会合開催の後、米財務省は為替政策報告書を公表。介入は「極めて例外的な状況」に限られるべきで、「事前の適切な協議」も必要とした。
従来、米国は日本の輸出競争力引き上げにつながる円売りには批判的だが、円買い介入は容認するとの見方もあった。しかし、高インフレに直面する今の米国は、物価上昇圧力を強めるドル売りも望ましくないと考えているとみられる。
ちなみに、日本の有力通貨当局OBによれば、米国が言う「極めて例外的な状況」とは11年3月に起きた東日本大震災の後のような市場混乱を指すという。実際、当時米国は円高防止の介入に協調した。
米国の支持を得ない状況下で日本が動いた前例もないわけではない。例えば日本にとっての最後の介入となった11年夏~秋の円売りだ。米財務省は為替政策報告書に「支持しなかった」と明記した。
ただし、米国に批判的な空気がある介入は市場に与える印象が良くなく、効果を上げるには規模を膨らませる必要がある。11年夏~秋もたった6日間に13兆円超に相当するドルを買った。同年の日本の経常黒字を超える規模のドルを一気に買い上げ、80円を上回る水準で推移していた円の上昇阻止に努めた。
もっとも、円売りだったから大胆に動けた面もある。自国通貨を元手とするので限界をあまり気にしなくていいからだ。一方、円買いの場合、外貨準備(5月末時点で約1.3兆ドル=約175兆円)が事実上の上限。そう簡単には限界に達しないだろうが、「弾薬切れ」の懸念を市場が意識するだけでも、効果は減殺されるかもしれない。
やはり、円滑な介入には米国の理解や支持が意味を持つ。「国際協調を見込めないもとで財務省が容易に動けるとは考えにくい」(SMBC日興証券の丸山義正氏)。それでも、今後円の急落が続くなら、財務省が賭けに出る展開にも注意が必要になってくる。


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