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弱る輸出、届かぬ円安効果 世界シェア98年比で半減 投資・人手不足が制約に 日経平均836円安

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61683620U2A610C2EA2000/

 

輸出への期待が株価を押し上げる過去の円安・株高とは異なる風景だ。1998年以降の円安局面を分析すると、貿易構造や労働市場の変化が円安の恩恵をもたらしにくくなったことがわかる。世界の輸出額に占める日本のシェアは98年に比べ半減した。成長への投資不足も背景にある。

 

円安が進めば、輸出企業の収益押し上げ期待につながり、株高も同時に進むのがこれまでの日本経済の基本的な構図だった。2005年、13年の円安局面がまさにその形で日経平均はそれぞれ年間で40%高、57%高となった。通貨安は日本経済の追い風になってきた。

例外だったのが98年の円安だ。金融機関の破綻が相次ぎ、円安と株安が同時に進む「日本売り」の様相となった。信用収縮は止まらず、円は一時147円まで売られた。

98年のような金融危機ではないにせよ、通貨安が日本経済を潤す構図ではなくなった点で、今回の円安の質的な変化は明らかだ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長は「今回の円安が、原油高と並行して進んでいることが大きい」と指摘する。05年はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物の期近物が1バレル40~60ドル程度と足元の半値以下で、貿易収支は8.7兆円の黒字だった。

13年は原油高と貿易赤字を伴い今回と共通点がある。東日本大震災後に原油の輸入が増える中で原油価格は110ドル台を付け貿易赤字が定着した。ただ当時は、まだ円安になると国内からの輸出が拡大し日本経済を潤すとの期待が高く、株価を押し上げた。

98年から24年間で、貿易構造は様変わりした。13年に比べても一段と生産の海外移転が進んだ結果、国連貿易開発会議(UNCTAD)の調べでは世界の輸出総額に占める日本発の輸出のシェアは、98年の7.0%から21年に3.4%へと半分以下になった。

世界の工場として勃興した中国の輸出総額のシェアが3.3%から15.1%に急伸した影響が大きく、7~8%を保つ米独とも水をあけられた。

自動車などでは高付加価値品の生産を国内に残したことで、「円安でもドル建ての販売価格を下げず輸出数量が伸びなくなっている」(ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦日本経済担当チーフ・エコノミスト)。13年以降の円安で実際には輸出数量が増えなかった経験から、今回は株式市場で期待が膨らまない。

一方、輸入ではIT(情報技術)製品などの輸入が増加した。例えばスマートフォンでは米アップルの「iPhone(アイフォーン)」などが日本市場で高い競争力を持ち、円安・ドル高で日本国内での価格が上がったとしても、消費者は安価な国内メーカーの商品ではなく、iPhoneを選ぶケースが多い。

輸出が伸びなくなる半面、スマートフォンや半導体などの輸入が高止まりしやすくなっていることで、貿易収支が悪化しやすいという構造的な問題に直面している。

人手不足の影響も見逃せない。有効求人倍率は1.27倍と、1倍を下回っていた05年や13年を上回る。「円安で国内生産を増やそうと思っても、有効求人倍率が上昇している中では、思ったように工場で働いてくれる人を見付けることが難しくなっている」(みずほ証券の小林俊介チーフエコノミスト)という。

欧州委員会のデータをもとに計算すると、労働者1人が使える資本設備の量を示す「資本装備率」は98年を100とした場合、日本は110程度で頭打ちとなり、09年からじりじりと低下。米国が150程度、ユーロ圏が120に高まっているのとは対照的だ。投資不足が輸出競争力の低下につながっている。