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国内総生産(GDP)の2倍に膨らんだ国の債務管理を議論するため、財務省は13日、新たな有識者会議を立ち上げた。現在の国債(きょうのことば)は日銀の市場からの大量購入で低金利が続き、取引が細っている。世界的な金利上昇局面で仮に日銀が金融緩和を縮小すれば、国内でも金利が上がって国の利払いが急膨張する。課題の先送りはできない状況になっている。
新たな「国の債務管理に関する研究会」は早大の小枝淳子教授ら5人で構成する。金融論などの先端研究に携わる40代の若手学者らを登用した。
安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」のもとで2013年に日銀が異次元の金融緩和に踏み切り、日本の国債は極めて低い金利が続く。国債の消化も「日銀頼み」とも言える構図だ。
新規発行されて利子がついた国債のうち日銀が購入する比率は、異次元緩和の前後で10%台から6割前後に上がった。16年に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)で金利を抑え始めた時は9割前後の国債を日銀が買い、取引の流動性が大きく下がった。
足元でも10年債を中心に金利の動きは小さく、取引の妙味は小さい。三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)やUBS証券が国債入札に特別な条件で参加できる「プライマリーディーラー」の資格を返上するなど、海外勢を中心に取引をやめる例もある。
国債の引き受け手の不足は安定消化のリスクになる。仮に日銀が金融緩和を縮小し担い手として小さくなれば、金利が急騰する恐れすらある。
新たな有識者会議の最も大きな課題の一つが、将来の金利上昇リスクを正確に把握することだ。
財務省は過去20年の金利から、今後10年の利払い費を3000通り試算する分析手法を使っている。21年度当初予算での分析では、今後10年の利払い費は平均的なケースで年8兆円となり、金利が上がればさらに最大年5.8兆円の上振れのリスクがあるとした。
ただ、今の試算にはこれまでの低金利が影響する。研究会の参加者の一人は初会合で「次の時代の入り口にあるという認識を持っている」と指摘。過去の金利動向をもとにしたリスク分析に頼る現状に懸念を示した。
21年末の普通国債残高は1000兆円に迫る。財務省の試算では金利が想定より1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は3.7兆円増える。仮に2%上がれば、7.5兆円の増加になる。22年度当初予算の公共事業費の6兆円を超える負担が上乗せされる。
リスクへの対処法の1つが、管理手法の高度化だ。米財務省に国債発行を助言する国債発行諮問委員会(TBAC)はマクロ計量経済モデルを使って今後20年の経済変数やイールドカーブ(利回り曲線)をランダムに生成し、利払い費と上振れのリスクを試算する。こうした事例について日本の財務省も研究会で議論を深め、可能なものから毎年の国債発行に採り入れる構えだ。
新しい有識者会議の前身にあたる「国の債務管理の在り方に関する懇談会」は04年にできた。国債が大量発行されるようになった時期で、メンバーには学会や金融界の重鎮が並んだ。国債の市場育成に向けて透明性や予見性を高めるため、情報発信や海外IRに力を入れた。決済期間短縮や40年債導入なども実施した。
日本の国債は21年末時点で43.4%を日銀が保有する。引き受け手を多様化するには、機関投資家や個人がお金を出しやすい魅力ある国債の設計が改めて必要になる。


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