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タイ不動産、仮想空間に的 メタバースで物件営業 暗号資産保有者を顧客に、「実需より投機」懸念も

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61677300T10C22A6FFJ000

 

タイの不動産大手各社が仮想空間メタバースを用いたビジネスに参入する。実在の物件を仮想空間で再現し営業活動に生かしたり、仮想空間の土地・建物を販売したりする。タイは暗号資産(仮想通貨)の保有率が世界一とされ、潜在性の高さに期待が集まる。ただ実体のない物件を扱うビジネスがどこまで浸透するかは未知数だ。

 

不動産大手プロパティ・パーフェクト(PF)はまず、2024年までに実在の不動産の内覧用にメタバースを活用し始める。東北部の国立公園カオヤイなどリゾート地に所有する高級住宅をメタバース内で再現する。購入を検討する人は自分の分身(アバター)を動かし物件を見学する。異なる季節の風景をいつでも味わえる利点もある。

第2段階では27年までに仮想空間のみに存在する土地や建物の販売にも参入する。百貨店や大学を誘致するほか、通勤せずに仕事ができるオフィスの需要も見込む。PFの21年の売上高は116億バーツ(約430億円)。27年には売上高に占める仮想空間の不動産販売比率を2割にする。

不動産開発マグノリア・クオリティー・デベロップメント・コーポレーション(MQDC)はアニメーション制作のT&B・メディア・グローバルなどと組み、仮想の街「トランスルーシャ」の開発を始めた。T&Bがアニメで培った知見を設計に生かしMQDCが販売する。事業費は100億バーツ以上を見込む。

仮想空間の開発にはデジタルデータの複製・偽造を困難にする非代替性トークン(NFT)技術を使う。データの所有権を記録することで実体を持ったモノのような価値を生む仕組みで、現物の土地と同様にビジネスに活用でき、第三者への売却や賃貸も可能だ。

タイでは外国人の土地購入は禁じられているが、仮想空間にはこうした制限がない。自国民が主な顧客だったタイの不動産企業にとっては客層を広げる機会にもなる。

世界の主要なメタバースゲームは仮想通貨を決済に用い、タイでも仮想通貨が主流となりそうだ。21年10月からタイの首都バンコク中心部を模した仮想空間を運営しているメタバース・タイランドは5月、仮想通貨交換所のタイ最大手ビットカブが扱う仮想通貨を土地取引に使えるようにした。

シンガポールのシンクタンク、データ・リポータルの1月の報告書によると、16~64歳のインターネット利用人口に占める仮想通貨保有者の割合は、タイが20%と世界で最も高い。インターネットに費やす時間もタイ人は1日あたり平均9時間6分と世界7位だ。そのためタイでは仮想空間ビジネスの成長余地は大きいとされ、異業種も相次ぎ参入を表明する。

カフェを運営するクラスコーヒーは2月に仮想空間「ベラバース」を投入した。タイ東北部ナコンラチャシマ県の中心地を模した約3万区画の土地を1区画300バーツで販売する。

仮想空間を設計・開発するブランドバースは、商業施設開発大手セントラル・パタナや「セブンイレブン」など約50社・ブランドと組み、各社が準備するデジタル資産の販売やイベントなどメタバース関連事業で協力する。

ただタイの仮想通貨の保有者の多くは投資目的で、メタバースの土地購入も実需より投機が先行する懸念も付きまとう。

タイ中央銀行とチュラロンコン大学の調査によると、メタバース「ザ・サンドボックス」の土地価格(販売指数ベース)は19年12月~22年1月までに300倍に高騰した。だが同大のカニス准教授は「メタバースへの漠然とした期待が価格を釣り上げている」と指摘。「どのような価値を持つのかはまだ研究段階で不透明な部分が多い」とし、タイの投資家に警鐘を鳴らす。

またNFT技術でデジタル資産の複製を防いでも、仮想の街が乱立すれば過当競争に陥り、土地や他のデータ資産の価格が下落するリスクもある。各社は自社のメタバース内にどれだけ「住人」を囲い込めるかがカギを握りそうだ。