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相続節税、不動産活用に制約 最高裁が「借金」けん制

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOMH032ZV0T00C22A6000000

 

これまで一般的だった不動産を使った節税策で、税務当局から追徴課税などの指摘を受ける可能性があると受け止められたためだ。今後の相続税の申告や相続を踏まえた不動産の取得では、どのような点に注意すべきなのだろうか。

 

不動産を使った相続節税の基本は、被相続人が保有する現預金をそのままにせず、不動産の購入に充てることだ。相続税は相続する財産の評価額に応じて発生する。例えば2億円の現預金を保有する人が亡くなったら、相続時の現預金の評価額は2億円だ。仮に2億円を不動産の購入に充てていたら、評価額を減らすことができる。

理由の一つが相続する土地の価値を評価する際に「路線価」を使うことだ。路線価は国税庁が毎年7月に公表する主要な道路に面した土地の1平方メートルあたりの価格で、公示地価の8割が目安となる。購入時から時価が変わらなければ、2億円で購入した土地の評価額は単純計算で1億6000万円と、現預金で持っているより4000万円下がる。その分、相続税も安くなる。購入したものが賃貸用物件なら、所有者が自由に使えない分も減らせるため、さらに節税効果を大きくできる。

税務当局は賃貸マンションの路線価による評価額が購入価格の30%に満たず、購入額と大きく異なることなどを「著しく不適当」と判断した。相続財産の算定額が「著しく不適当」な場合に国税当局が再評価できるとする例外規定を根拠に約12億7000万円と再評価し、約3億円を追徴課税した。

それでは今後、納税者側はどのように対処すべきなのだろうか。元仙台国税局長の川田剛税理士は、今回の最高裁判決は相続時の不動産評価の「著しく不適当」な場合について、「明確ではないが、一定の枠組みを示した」点に注目する。判決では時価が路線価を上回るだけでは著しく不適当ではないとした。そのうえで「借り入れにより大幅な評価減が可能な賃貸不動産などを節税を期待して購入する」という対策自体が著しく不適当だとした。

ここから読み取れるのが、まず、不動産を取得するための借り入れが問題視されたということだ。多額の借り入れがあれば債務控除を使い「取得した不動産以外の財産とも相殺でき、課税対象額を大きく減らせる場合がある」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。最高裁は不動産の評価減と並んで借り入れが課税対象額を大きく減らし、「実質的な租税負担の公平に反する」とした。

「不動産の取得が相続節税の目的に限られると判断されるのも避けた方が無難」(阿保秋声税理士)との見方もある。今回の裁判では被相続人は約10億円を90代で借り入れていた。融資した信託銀行は貸し出し稟議(りんぎ)書に「相続対策のため借り入れの依頼があった」と記載。さらに節税に使った賃貸マンションのうち1棟を相続開始後1年未満に売却していた。年齢や書面の記載、売却時期ともに「条件」はそろっていた。

既に相続税の申告をした人の中には、今回の事例と同様の手法を使った人もいるかもしれない。相続税の申告では、当局の指摘は申告から1~2年以内にされることが多いとされる。今回の判決を受けて「同様のケースについて積極的に調査をする可能性はある」(阿保税理士)。仮に税務当局から指摘があった場合は、修正申告が必要になることもありそうだ。

一方で今回の事例については「税金をゼロと申告するなど極端なケースといえる」(大手銀行)との声もある。実際には借り入れに依存した高額の不動産購入は、一部の富裕層にしかできない。税務当局が不適当とする基準が明確でないことは不安材料だが、最高裁は通常の節税手法そのものは認めている。「常識的な」範囲の節税策については過度に心配する必要はないともいえそうだ。

タワマンも対象に

不動産を活用した節税策は地価が上昇する局面で多用される傾向がある。取得価格と路線価による評価の差が広がりやすく、節税効果が大きくなるからだ。2012年末からの株価上昇に歩調を合わせた地価上昇局面ではタワーマンションを使った相続税の節税対策(タワマン節税)が活発化した。


タワマン節税も購入価格と税務上の評価額の差を利用する。「約40年前からある不動産を使った節税対策の変形パターン」(藤曲税理士)ともいわれる。タワマンの相続時の評価では対象となる土地部分が少なく、建物部分は購入価格の40~60%とされる固定資産税評価額を使う。そのため一般の住宅に比べて評価額が購入価格より大幅に低くなる。さらに高層階ほど高値で売買されることから、相続税の節税を狙い、あえて高層階の部屋を買っておき、相続開始後に売却するという方法もみられた。

実は国税庁は15年にタワマン節税を念頭に「著しく不適当」な場合に自らの判断で相続財産を再評価する方針を発表した。今回の最高裁判決はこうした節税まで視野に入れたものとはいえないが、「借り入れを活用したタワマン節税も税務当局の指摘を受けやすい」(藤曲氏)のは間違いないだろう。