フランスの経済学者ピケティは「21世紀の資本」で、世界20カ国以上の200年に及ぶデータを集計し、株や不動産投資など資本ストックの収益率(r)が経済成長率(g)より常に大きかったことを実証し、今後も、その状態が続くと予測した。富裕層は再投資によって富を雪だるま式に増やす一方、勤労者は経済成長並みの所得の伸びしか期待できず、双方の格差は21世紀を通じて継続的に拡大する。放置しておくと社会が分断されると警告を発した。
この状況は、わが国にも大いに当てはまる。賃金は過去20年ほとんど増えていない一方、資本ストック収益率はどの推計を見ても伸びている。
r∨gの世界で格差を是正するには、資産所得への課税だけで十分とはいえない。仮に資産が毎年3%の収益(資産所得)を生み出すとして、40%の所得税をかけたとしても富は毎年1.8%増え{3%×(1-40%)}、格差は拡大する。格差縮小には資産を時価評価して資産に累進課税する方法しかない、これがピケティ氏の主張であった。
バイデン米大統領は2023会計年度の予算教書で、資産を時価評価してその増加分を譲渡益として課税する「超富裕層課税」の導入を提言した。米国の上位0.01%である資産1億ドル(約130億円)超の世帯(1万4000前後)を対象に資産を時価評価し、その増加分を所得に加え最低20%課税する。彼らが実現・未実現の総所得に対し、教員や消防士の半分以下である8%しか負担していないとの背景がある。
先進諸国の所得税は、包括的所得概念で構築され、純資産の増加はすべて所得として計算される(純資産増加説)。だが資産の増加が未実現の場合には、課税技術上の困難性や納税資金調達の問題などから、売買などで実現するまで「課税繰り延べ」になる。
これは所得税制のアキレス腱(けん)と呼ばれてきた。課税賛成派は、米国の金融技術を活用すれば未上場株を時価評価することは可能で、キャッシュフローの問題には物納で対応できると主張する。
この話は、極端に所得・資産格差のある米国特有の考え方なのか、r∨gの世界で先進諸国にも受け入れられる考え方なのか。岸田文雄首相の唱える資産所得倍増計画との関連で興味深い論点を提示してくれる。
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