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自分だけの表現、Z世代が探す 失敗許される街つくりたい 原宿でみつける もう一度、若い才能集める

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61450770V00C22A6TLD000/

 

「若者の街」として知られる原宿だが、新たな世代の関心がデジタルに移るとともに新型コロナウイルス禍も重なり存在感が低下していた。そんな逆風下で「誰もが挑戦できて失敗が許される街」として活力を取り戻そうと、商業ビルなど地元関係者が若いクリエーターが活躍できる場を相次ぎ開いている。世代を超えてそれぞれの思いを合わせることで新たな街の魅力も生まれる。

 

多くの若者が行き交う原宿の神宮前交差点にある商業施設「ラフォーレ原宿」。5月15日、6階にある「ビー アット スタジオ ハラジュク」で6人の女性ダンサーが立ち見も含めた約50人の観客にあいさつをしていた。

ダンサーは1990年代半ば以降に生まれたZ世代で、3月から5月にかけての公演に合わせて結成した6人組ユニット「トクトクトナル」。メンバーの猪野なごみさんは「たとえ失敗したとしても、必死に何かを作り上げる姿を見てもらえる場に出合えた」。

幼少の頃から集団行動が得意ではなかったという猪野さん。何か夢中になれるものはないかと考えた母に勧められたのが、ダンスだった。やってみると心地良く、いつしかダンサーを目指すようになった。18歳で上京して、人気歌手である米津玄師の全国ツアーで踊るなど経験を積んできた。

「人と深く交流することに自分は向いていないと諦めていた」というだけに、今回6人組ユニットを組んだことは新たな挑戦だった。当初は自分の意見を伝えることができず、思い悩んだが、「思っていることはきちんと伝えないと自分の成長につながらない」とメンバーから励まされ、心を開けるようになった。

「学校などに居場所がないと感じる人はいるはず。自分の踊りを見てもらうことで気持ちを楽にしてほしい」。踊る意味をこう見据えながら、原宿に集まる若者たちに全身で思いを伝えている。

「誰もがまねしたくなるような、印象に残るテレビCMの振り付けをしたい」。ユニットには振付師を目指す中嶋美虹さんも参加している。4歳からダンスを始め、今は地道に振り付けを学んでいるが、これまで「自作の振り付けを発表する機会がほとんどなかった」。公演では仲間に自作のダンスを踊ってもらった。観客の反応が不安でたまらなかったが「自信につながる経験ができた」。

失敗を恐れていては、新しい表現は生み出せない。多くの若者たちが集う原宿で、失敗も成功も仲間と共有できる場を作ろうと、地元関係者が動いている。

幼少期からスマートフォンが身近にあり、常に膨大な量の情報に接してきたため、「SNSなどを通じて、自分よりすごい人たちの存在がどうしても目に入ってしまう環境にいる」。博報堂若者研究所のボヴェ啓吾さんはこう指摘し、「若者たちはそれでも、何かが好きだという自分の気持ちを信じて、一歩を踏み出そうとしている」。だからこそ失敗しても挑戦し続けられる包容力のある原宿のような街が重要となる。