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個人資金、海外株に8兆円 「逃避」の気配に危うさも

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61451490V00C22A6ENG000/

 

国内の投資信託を経由した海外株への投資額は2021年に8兆3000億円に膨らんだ。日本株への投資額(280億円)の300倍近くにのぼる。資本効率などで優れる海外企業を選好しているためだ。家計の資金が海外に逃避する「キャピタルフライト」の気配もあるようで、危うさが見え隠れする。

 

「世界経済は成長が続いている。長期的に積み立てるつもり」。20年5月にネット証券で積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)を利用し、海外株投信への投資を始めた20代女性会社員は話す。

 

新型コロナウイルス下で、日本の個人マネーは海外株の比重を高めている。21年の日本国内の株式投信を通じた海外株投信への純流入額のうち、米国株はその9割程度を占めるとみられる。日興リサーチセンターのデータを基に試算すると、22年1~4月の日本国内の株式投信による米国への資金流入は約1兆5千億円。米国内の米国株投信への純流入額約2兆1千億円(モーニングスター・ダイレクトによる)の7割分にも達する。

 

海外株人気の裏側で、日本株への関心は薄れている。1~4月の日本株投信への純流入額は3000億円と少ない。国内投信の人気ランキングを見ても、22年5月末の純資産額首位は米ハイテク株を組み入れる「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース」など、上位10本のうち米国株や米国株中心に運用する投信が6本を占める。日本株中心の投信はゼロだ。

 

個人マネーが海外に向かう直接的な理由は企業の競争力の差だろう。どれだけ効率的に利益を出したかを示す自己資本利益率(ROE)で、QUICK・ファクトセットのデータを基に試算すると、過去20年間のTOPIX採用銘柄平均は1桁台後半。かたや、S&P500のROEは10%台後半で推移する。

日本企業は新陳代謝の遅れなどで利益率が伸び悩んでいるが、米国は「GAFAM」をはじめIT企業が台頭して収益性が高い。

注意すべきは海外投資熱から資金逃避の気配も読み取れることだ。「日本は成長するイメージがない。不安が大きい」と50代の女性投資家は国内株投信をすべて売却した。1990年から30年間で日本の名目国内総生産(GDP)は2割増、賃金は4%増にとどまるのに対し、米国のGDPは3.5倍、賃金は48%増に及ぶ。日本で成長を実感できない人はいるだろう。高齢化や財政悪化など国家的な課題も山積する。将来の不安から資産を海外に移そうと考えても不思議ではない。

岸田文雄政権は貯蓄から投資へのシフトを促している。NISA口座の開設数は21年12月末時点で約1800万と5年間で7割増えた。最近は20~30代の口座開設が目立つなど、投資の裾野は着実に広がっている。ただ、抜本的な構造改革で日本経済の力を底上げしないと、個人マネーを海外流出させるだけの結果に終わりかねない。