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ラーメン店の開業、ノウハウ伝授で移住促進 栃木・佐野

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC280FL0Y2A520C2000000

 

施策の核となるのが佐野駅前にある「佐野らーめん予備校」だ。不動産業を営む若田部賢共同代表と市の移住促進課が二人三脚で運営する。希望者は数週間に及ぶ講義の受講や調理実習を経て、店舗での修業か独立開業を選ぶ。移住者には市から奨励金(10万円)が支給され、予備校での授業料(14万9800円)に充てることもできる。

2020年8月に始まり、これまでに約10人が受講。開設準備に関わった「0期生」も含めて3人が開業した。出身の佐野市にUターンした「佐よし」、秋田県からの移住者が開いた「麺屋ブラス」など、閉店時間を待たずに完売するような人気店に成長した店もある。

予備校の授業はどんな内容か。研修の現場をのぞいた。

研修生は東京都在住、外食チェーン出身の羽鳥公之さん。「生涯現役を目標にラーメン店経営を思い立った」

授業はメニュー作りや人材確保など店の運営にかかわる内容に加え、出店資金の調達、金融機関や公的補助の説明まで幅広い「座学」が用意されている。若田部共同代表は「よくある『ラーメン道場』との違い、特徴を出したかった」と話す。

もちろんメインは調理実習だ。スープ、チャーシュー作りから、佐野ラーメンの特徴の一つといわれる青竹を使った麺打ちまで、人気店の店主だった五箇大成さんが懇切丁寧にノウハウを伝授する。

羽鳥さんは前職時代に厨房に立った経験はあるものの、本格的なラーメン作りは初めて。スープを作る過程で発生するあく取りや、食材、調理器具の片付けを同時にこなさねばならない。

一連のラーメン作りは効率よくできるようになり、最終日には試作したラーメンも講師から合格点をもらった。羽鳥さんは「天気や湿度に応じて麺の状態が変わる。水分調整が最も苦労した」と話す。今後は予備校卒業生の店舗などで実地研修を進めながら、住まいや店舗を探し、独立開業にこぎ着けたいという。

ラーメン店の開業と移住がセットのユニークな取り組みには、佐野市特有の事情がある。全国的に認知度の上がったラーメン店にも高齢化、後継者難の波が押し寄せる。市の調べでは10年で35店が廃業し、店主の高齢化や病気などが原因だったのは12店だった。

佐野市は首都圏に比べて地価が安く、月10万円程度で店舗を借りることができる。改装費用も含めて500万円程度あれば開業できるという。「出店コストの安さに加えて市民、観光客が多く来店するため、都心で飲食店を開くのに比べてリスクは低い」(佐野市の担当者)

ただ、予備校に入学希望を申し出ても、様々な事情から辞退したり、途中で開業を諦めたりする人もいる。移住・開業にたどり着けるかは希望者の覚悟次第のようだ。