https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG032KU0T00C21A2000000
資料はCRS(共通報告基準)情報と国外財産調書で、国税庁が概要を公表する。CRSは各国の税務当局が持つ金融口座の残高情報を共有する仕組みで、国際的な租税回避を防ぐため、2014年に経済協力開発機構(OECD)で策定が決まり、日本でも18年から運用が始まった。独自の情報交換制度を持つ米国は不参加だが、それ以外の20カ国・地域(G20)など主要国を網羅する。
情報は金融機関から各国の税務当局に届く。本人同意は不要だ。国税庁は21年6月までに87カ国・地域の約191万件を入手し、残高は約12.6兆円に上った。
国外財産調書は、年末時点で海外に5000万円超の財産を持つ人が提出する。20年末時点で約1万1千件が提出され、総額は約4兆1465億円だった。13年分から制度が始まり、提出数、金額は徐々に増えているが、総額は約4兆円で頭打ちだ。
海外金融機関の情報と、自主申告の間の8兆円の差額。この中に隠し財産が含まれる疑いがある。
疑惑を裏付ける事例がある。東京国税局が数年前に手掛けた男性経営者の税務調査はあるアジアの国からの情報が端緒だった。
CRS情報では男性は多額の国外預金を保有していたが国外財産調書は未提出だった。東京国税局の調査で金融商品や海外不動産への投資による多額の利益が判明。日本に居住し、海外所得の申告義務があった男性は約2億7900万円の申告漏れを指摘され、約6800万円を追徴課税された。
もっとも差額がすべて隠し財産とはいえない。差額には非上場の法人口座や5千万円以下の財産など隠す意図のないものも含まれるためだ。CRS不参加の米国に日本人が持つ財産の実態はこの制度からはうかがえない制約もある。
とはいえ様々な特殊事情を加味すると、8兆円の差額のうち数兆円規模の財産が適正に申告されていないとイメージはできる。
〈Review 記者から〉批判恐れず、公表を
40年以上がたち、ネット取引や暗号資産などの登場で海外に資産を持つハードルは下がった。「パナマ文書」などでタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れの実態も暴かれた。一方、富裕層に詳しい芦田敏之税理士は「今は脱法的資金を預かる金融機関はほとんどない。隠し財産の額はそれほど大きくない」と指摘する。公的推計がないために実態を議論しにくい現状がある。
法人課税でも国境を越えて活動する巨大IT(情報技術)企業へのデジタル課税導入が進む。ESG(環境・社会・企業統治)の強化の一環として、自ら納税額を開示する先進企業も増えている。
富裕層
法律上の定義はないが、国税当局は富裕層を「継2(けいに)」という隠語で呼ぶ。税務署では大口資産家(富裕層)の資産状況などの資料を「継続2管理事案」という名称で管理することに由来する。保有資産などに応じてリストアップしているが、どういう条件で抽出しているかは公表されていない。
野村総合研究所は金融資産の合計から負債を差し引いた純金融資産の保有額が1億円以上の世帯を富裕層と定義し、世帯数や資産額を推計している。同社によると、2019年時点で日本の富裕層は約133万世帯で、資産規模は333兆円。5億円以上を持つ超富裕層は8.7万世帯。株高などを背景に、富裕層は増加が続いているという。


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