https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61400340T00C22A6MY1000/
「これが私たちの住む銀河の中心にある巨大ブラックホールの姿です」。5月12日の記者会見で国際研究チームが発表した画像には、オレンジ色のドーナツに囲まれた穴のような黒い影が映っていた。最も近い「いて座Aスター」と呼ぶ巨大ブラックホールを撮った画像だ。質量は太陽の約400万倍で、地球からは2万7000光年ほどの距離にある。ブラックホールの撮影としては2019年の公表に続く2例目になる。
巨大なブラックホールがどのように生まれ、何をしているのかは大きな謎だ。何でも吸い込むと聞くブラックホールだが、実は吸い込み切れなかった物質を勢い良く噴き出している。超高速で噴き出すガスの存在からは、次々とエネルギーを放出する場所という別の顔が見えてくる。
動画で迫るのは、噴出するガスの様子だ。周囲のガスを吸い込み、大きく成長する瞬間も捉えられると期待が膨らむ。
動画観測は、ブラックホールがなぜ銀河の中心にあるのかという疑問を解く手掛かりも与える。ブラックホールの質量は、常に銀河の質量の1000分の1ほどになる。この不思議な関係から「銀河が誕生して今の姿になる上で何らかの役割を担っていただろう」(本間教授)。銀河を地球ほどのサイズに見立てるなら、巨大ブラックホールは米粒よりも小さくなる。銀河に影響を与えるとしたら、何がそれだけのエネルギーをもたらすのか。興味は尽きない。
動画を撮るには望遠鏡の数を増やして画質を向上する必要がある。過去2回の撮影で使った観測網には、その後、グリーンランドなど3カ所の望遠鏡が加わった。北米、南米、アフリカにも増設して2倍に増やす計画もある。既に設置している望遠鏡の改良も進めており、解像度の向上を目指して早ければ23年にも短い波長を観測に使えるようにする。画像解析の手法も動画用に改良を重ねている。
これまで静止画の撮影に成功した2つのブラックホールは、地球から大きく見えた。現在の望遠鏡の性能ではこの2つを撮るのが限界という。そのほかのブラックホールは小さかったり、地球から遠かったりする。望遠鏡を地球サイズより、何倍も大きくしないと撮影できない。電波望遠鏡を宇宙に浮かべ、地球の外側にも観測網を広げれば撮影できるが、現状では予算のめどは立っていない。
別のブラックホールを撮影できるようになったら、天文学者は何を見たいと考えているのか。本間教授は「宇宙が生まれたばかりのころのブラックホールを撮影してみたい」と目を輝かせる。
何でも吸い込むイメージが強いブラックホールと銀河の誕生は、一見すると矛盾する現象のようにも思える。無数に存在する巨大ブラックホールがどのように生まれて何をしているのか。様々な年代で、しかも動画で撮影できれば、そのヒントが得られるかもしれない。



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