https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC244F50U2A520C2000000
店頭で販売する従来のリアル接客に加え、近年はSNS(交流サイト)や専用ツールなどを駆使した「オンライン接客」が、企業の売り上げに大きな影響を及ぼしている。こうした新たな動きの渦中にいるのが、従来店頭で接客を行ってきた店舗スタッフだ。彼らは持ち前の高い接客力を生かし、オンライン接客でも活躍。中には、月に1億円超を売り上げるスタープレーヤーも誕生している。
ツールの進化も著しい。化粧品業界では、人工知能(AI)や拡張現実(AR)を搭載した「バーチャルメークサービス」により、「実際に試せないデメリット」が、「むしろ短時間でより多くのバリエーションを試せるメリット」へと変化している。多く試せる分だけ購入率が高まるという効果もあるようだ。
バーチャルメークサービス「YouCam メイク(ユーカム メイク)」提供元のパーフェクト(東京・港)によると、サービスを利用したユーザーの商品購入率は、非利用者と比較すると2~6倍になるという。
電子商取引(EC)サイトに商品をただ並べているだけの時代はもう終わった。令和のECの勝ち筋は、店舗スタッフの発信力でいかにオンラインでの顧客接点機会を広げ、ファンを増やし、長期的な関係を構築できるかにある。
コロナ禍が後押ししたオンライン接客
オンライン接客は新型コロナウイルス感染症拡大で浮上した「非対面・非接触」ニーズとも相性が良く、2020年以降、アパレル、化粧品、家具・家電、不動産、保険など、ジャンルを問わず急速に浸透した。
オンライン接客に取り組むのは大手企業だけではない。個人経営者や中小企業であっても実施できるのがメリットだ。例えばバターコーヒーなどのダイエット商材をECで販売する「ミウラタクヤ商店」は、運営元のモノリス(京都市)の三浦卓也代表が1人でECサイト運営からオンライン接客まで行っている。1人運営ながら、年商は19年~21年までの3年連続で1億円を達成している。
4象限で見るオンライン接客パターン
・1対n×双方向
ライブコマースや、インスタライブなどのライブ配信接客が該当する。一度に多数の視聴者を相手にできるだけでなく、その場で視聴者から寄せられた質問に対し口頭で返答できるため、購入の後押しになりやすい。
・1対n×一方向
ブログ、ECサイトなどに投稿されたコーディネート画像や動画、Podcastに代表される音声サービスなどが該当する。ユーザーは24時間好きなタイミングでコンテンツを閲覧・視聴できることから、リアル接客やライブコマースのようにリアルタイムの接客が必要とされない。一方、コンテンツが少ないと売り上げにつながりにくいため、継続的な更新が求められる。
・1対1×双方向
Zoom(ズーム)などの既存サービスや、専用のビデオ接客ツール、チャット接客ツールなどを活用して、主に1対1でスタッフと客が対話する。ECサイトの情報だけではサイズ感や着用感に不安があったり、対面のように店舗スタッフに相談しながら商品を決めたりしたいといったニーズに応えやすい。
・1対1×一方向
スタッフや店舗側から、客個人に商品情報等を伝えるための手段。リアル接客の延長にあるオンライン接客とも言える。店頭で試着をしたが、その場では購入の意思決定までに至らなかった場合や、省人化店舗が店舗スタッフによる商品説明の代わりに利用するなど、主に商品ページURLに遷移するQRコードを活用してECサイトに誘導する。
オンライン接客がもたらす次の価値
オンライン接客に取り組むメリットは、「売り上げにつながる」という分かりやすい目的にとどまらない。その先に、顧客との長期的な関係を見据えた3つのポイントがあると語るのは川添氏だ。
1つ目がデータの取得。リアル接客の場合は、店頭でアプリ会員になってもらったりLINEの友だち登録をしてもらったりといったアクションがない限り、顧客情報を入手することは難しい。一方オンライン接客の場合は、予約申し込みや問い合わせなどで、接客が始まる前からメールアドレスやLINEアカウントなどを取得しやすい。またオンライン接客を通じて、どんな商品を提案したら購入につながったといった情報も蓄積される。
そうして得たデータを基に、2つ目のポイント「CRM(顧客情報管理)」につなげられる。例えばビデオ接客終了後に、顧客のメールアドレスやLINEなどにその日に提案した商品情報を送るだけでなく、後日それらの商品を活用したコーディネート例や、他の売れ筋商品を紹介することもできる。つまり、オンライン接客を通じて構築された信頼関係をベースに、オンラインでコミュニケーションを取り続けられるようになったというわけだ。
最後のポイントは、利用対象の拡大だ。以前はオンライン接客ツールにCRM機能が内包されていないことも多く、CRMマーケティングを展開するには外部ツールとの連係が必要になることも多かった。そのためコスト面や導入ハードルの高さから、中小企業がオンライン接客の延長でCRMまで取り組むのには難しさもあった。
しかし最近では、チャット接客サービスとCRM機能がセットになり、数千円から導入できる「チャネルトーク」のようなサービスも台頭してきている。こうしたサービスを活用することで、中小企業であってもオンライン接客を通じて顧客と継続的にコミュニケーションを図ることが容易になった。
「オンライン接客は積み重ねることで、宝の山ができていく」と川添氏は言う。売り上げ向上や新規顧客開拓といった直接的な効果に限らず、将来につながる「宝」の発掘にもなるなど、オンライン接客は無限の可能性を秘めている。

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