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「2%目標」到達の日銀、この先どこに向かう? 人生100年こわくない・マネー賢者を目指そう(熊野英生)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2518Y0V20C22A5000000

 

本稿後半では、そのときの資産運用の環境を考えようと思うが、まずは安定的に2%を上回ることが可能なのかどうかを検討してみることにした。

 

米金融引き締めの影響大きく

メイン・シナリオは、日銀が安定的に2%を上回ったと判断しないパターンだ。背景には、米金融引き締めがある。5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利を0.75~1.00%まで引き上げた。年内のFOMCはあと5回。そこで、仮に0.50%ずつ利上げをすれば、政策金利は3.25~3.50%まで上がる。そうなると米経済は減速して米インフレ率は低下し始める。ドルも下落して円高になる。運用環境は、円高・株安で年内は厳しいものになる。日米株価も調整が続きそうだ。

達観すると、先進国はインフレに悩み選挙では与党にとって厳しい結果になっている。フランス大統領選では第1回目投票で現職のマクロン大統領がルペン氏に猛追された。韓国ではソウルの不動産価格の下落を公約した尹錫悦氏が新大統領になった。オーストラリアでも物価上昇が政権交代の一因になった。

11月の米中間選挙でもインフレが沈静化せず、民主党が大敗北になるリスクがある。FRBは微妙にその影響を受けて、果敢に利上げしているという見方もできる。筆者はFRBのインフレ抑制が成果をみせるまで、米運用環境は厳しいとみる。

だから、日本の物価が追い風にしている円安と原油高騰は年内どこかで一服し、消費者物価は再び2%を割り込んで、1%台前半まで低下してもおかしくないとみる。

多くの人は、消費者物価が1%台前半まで低下したときに、ゼロ金利解除が相当先になったと思うだろう。これで、日銀は次の2%超えを数年先まで再び待つと思われる。

結局、日銀の黒田東彦総裁は「安定的に2%」という壁を自分で作って、その壁を越えられずに終わる。しかし、政府の資金調達コストを極端に低位にする狙いに成功する。

「ポスト黒田」が路線変更?

考えたいのは、2023年4月以降に次の日銀総裁が同じ路線を踏襲するかどうかだ。22年を通じて、政府は過度の円安と物価上昇の痛みを実感する。安定的に2%というハードルは少しやり過ぎたと反省するだろう。先進各国で起きているように、インフレを放置することは問題だという機運が高まるだろう。

22年末頃に、政府が次期総裁を選ぶときは、あまりに頑(かたく)なではない人物を選ぶと考えられる。

23年の金融政策を展望すると、政府は日銀総裁があまりに円安容認的で、物価上昇の痛みに無関心なことを反省する姿勢を示すと予想する。オーバーシュート・コミットメントも是正されて、長期金利の変動幅ももっと柔軟に動くように変化するのではないか。

中央銀行は独立していると言われるが、長い目でみると民意を反映して中央銀行の姿勢も変わっていく。民意がコストプッシュ・インフレを嫌がると、それが政治的な意思に影響していく。日銀総裁の人事も、その政治的な意思によって、もう少し円安や物価上昇を問題視する人達に変わっていくだろう。

筆者が今後の金融政策をどうみるかを示すと次のようになる。メイン・シナリオは①23年4月までの黒田総裁の任期中は、安定的に2%を上回るとは判断されない②米金融引き締めによって円安は円高方向に戻して日米株価は調整する③22年中に日本では、円安の行き過ぎや物価上昇が放置されていることに疑問の声が強まる④次期日銀総裁の選定後は、オーバーシュート・コミットメントを修正して、黒田総裁の運営が見直される、という筋書きになるだろう。

では、日銀がマイナス金利・ゼロ金利の修正を実行できるのはいつになるのか。筆者は、22年中に安定的に2%を上回らなくとも、物価上昇率が23年以降に再び高まる局面はそれほど遠からず来ると予想する。

あえて言えば、23~25年のどこかにその機会は来るだろう。物価情勢は、22年の上昇を経験して、インフレに転換していくとみる。これが長い時間軸でみたときの日銀の政策見直しだ。

熊野英生(くまの・ひでお)

第一生命経済研究所首席エコノミスト。1990年横浜国立大経済卒、日銀入行。調査統計局や情報サービス局を経て、2000年に第一生命経済研究所入社。11年より現職。日本ファイナンシャル・プランナー協会理事を務める。山口県出身。