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虎ノ門ヒルズ手掛けた内装工事会社、資金難で破産 企業信用調査マンの目

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC308690Q2A530C2000000

 

現代表が先代の父から経営を引き継いで2年あまり。新型コロナウイルス禍で売り上げが大きく落ち込むなか、資金繰りが限界となり、ゴールデンウイーク最中の5月2日に事業を停止していた。経理・財務面の詳細を現代表が把握しきれていなかったことも、今回の事態を招く要因となった。

 

アイデポートは1974年に創業し、75年に法人改組した内装工事会社だ。その後、同社の従業員だった先代が事業を引き継ぎ、86年に代表取締役に就任した。長年の業歴を有する業者として、表装仕上げに特化することで多数の受注を獲得してきた。首都圏を中心に北関東から東海までを主な営業エリアとして、商業施設や店舗、オフィス、ホテル向けに壁紙や床材、カーペット、カーテンなどの施工を行ってきた。

過去の実績をみても、虎ノ門ヒルズや東京スカイツリー、渋谷ヒカリエなど、著名な大型商業施設内の内装工事に数多く携わってきた。とくに内装仕上げ工事のなかでも、高い施工能力を要するとされる「柄模様のクロス施工」を得意分野に、業界大手から多数の直接受注を獲得してきた。小口から大型案件まで含めると、年間受注合計は2000件を超え、ピーク時の2007年7月期には約12億円の売上高を計上していた。

コロナ禍で2桁減収

近年もインバウンド効果でホテル業界向けの受注が好調に推移するなど、堅調な業績を確保していた。金融機関への返済も順調で、なかには返済し終えた長期借入金もあったという。

東京五輪関連の大型受注の話も舞い込んでいたが、2020年の新型コロナ感染拡大で状況が一変した。予定していた五輪関連の案件は延期・縮小を余儀なくされ、長引くコロナ禍で売り上げは大幅に減少し、2021年7月期の年売上高は前の期比2ケタの減収となる約6億9000万円まで落ち込んでいた。

この間にコロナ融資の活用、金融機関に対する借入金のリスケジュール(返済繰り延べ)などで当座の資金繰りを回す日々が続いた。しかし、必死の資金調達もついには限界を迎え、2022年5月上旬の決済で5000万円近く資金が不足する見込みとなり、ゴールデンウイーク最中の5月2日に事業停止に追い込まれた。

金融機関と交渉関与せず

自己破産申請時、裁判所に提出された現代表による「陳述書」をみると、アイデポートが資金ショートするまでの経緯・背景が浮かび上がる。現代表が父の経営する同社に入社したのは1989年だった。営業職として入社し、営業制作部長として従事してきた。2014年以降、2度にわたり共同代表に就いたことがあったものの、経営全般は一貫して父が担い、金融機関との交渉等も現代表はほとんど関与してこなかったという。2020年10月の父逝去に前後し、同年7月に現代表が経営を引き継ぐことになった。

コロナ禍前半にかけて、先の見えない難局を乗り切るため、約2億円のコロナ融資(元金据え置き期間3年)を活用した。取引金融機関から「強く勧められ、限度額いっぱいに借り入れ」を行ったという。これらは主に、工事に必要な資材の仕入れや支払いのための日々の運転資金に充てられ、一時的に資金繰りを緩和する効果もあった。しかしコロナ禍が長引き、業績悪化が続くにつれ、資金繰りは再び余裕を失っていった。

そんなとき現代表が頼ったのが、取引金融機関による追加融資だった。早速、担当者に連絡を取ると、代表の予想に反して返事は「不可」だった。金融機関側からすれば、コロナ融資の活用で借り入れが膨らみ、すでに融資枠を超えていたためだった。これに対して現代表は「コロナ融資は(通常の)融資枠とは別枠と認識し、コロナ融資の借り入れがあっても追加融資は従前のとおり応じてもらえる」と考えていたという。

厳しい言い方にはなるが、いざという場面で金融機関対応の経験の乏しさが出たともいえるだろう。「たられば」の話をしても仕方ないが、会社と金融機関のこうした「ボタンのかけ違い」がなければ、資金ショートを回避するすべはもしかしたら見つかっていたかもしれない。

その後、取引金融機関はリスケ支援に応じたほか、中小企業再生支援協議会(現・中小企業活性化協議会)の活用を会社側に打診するなど、最後まで事業継続に協力姿勢を見せた。しかし、アイデポートの経営は回復不可能な状態にまで追い込まれるなか、代表および親類筋からの資金導入も限界となり、ついには事業継続断念に至った。

「建設」で減収減益多く

帝国データバンクが4月28日に発表した企業アンケート調査(全国・全業種1万1765社回答)によれば、2022 年度の業績見通し(売上高・経常利益)を尋ねたところ、全体の23.9%が「減収減益」と回答したことが分かった。業種別でみると、「建設」(30.9%)が3番目に「減収減益」と答えた企業が多く、業界環境の厳しさを映し出している。

今回取り上げたアイデポートの事例のように、コロナ融資の活用で取引金融機関の融資枠を超え、資金調達余力が「ほぼ限界」に達しつつある建設業者も少なくない。また、ロシア・ウクライナ情勢による影響も、業界全体に暗い影を落としている。

企業からは「建設資材の高騰により、着工の見送りや中止が出始めてきた」「受注の減少による競争激化で粗利の確保が難しい」といった声も聞かれる。ロシア発のウッド・ショック(木材不足や価格高騰)の影響が大きい「建築工事」「木造建築工事」などの業態は、業績へのマイナスの影響が長引くおそれもあり、当面とくに注視が必要なセクターといえるだろう。