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日本の病は「供給過剰」にあり デービッド・アトキンソン 小西美術工芸社社長

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61366070S2A600C2TCR000/

 

どの国でも生産年齢人口(15~64歳)が増えれば経済は活性化されやすいし、総人口に占める比率が高くなれば景気がよくなる傾向も強い。

世界銀行のデータでは、日本の生産年齢人口比率は1992年に69.8%のピークを迎え、2020年に59%まで低下して先進国中最下位だ。60年までには50%前後まで下がる見通しという。

生産年齢人口が減ると、潜在的経済成長率も下がる。これはピークの95年から20年までに1271万人減っている。これまで労働参加率を高めて対応してきたが、これも既に世界最高水準に達しているため、限界に近い。

生産年齢人口が減るのがまずいのは、労働力が減るからではない。消費が活発な層が減るからだ。同じ人口であっても、生産年齢人口が多い国と少ない国では個人消費が違う。従って国内総生産(GDP)の水準も変わる。

消費を活発に行う層が減れば、商品を買う頭数が減る。一部の業種を除いて、経済全般は慢性的な供給過剰状況に陥ることを意味する。これこそが、日本経済が抱える真の問題だ。

長期にわたって経済が成長しない理由は、需要不足だという説が根強い。しかし、日本人にお金がないから空き家が増えたのだろうか。お金がないから電車に乗る人が減って、廃線が増えたのだろうか。お金がないせいではない。人が減ったからだ。

その原因を緊縮財政に求める人もいる。政府は消費税を廃止すべきだと訴えてみたりする。しかし、消費税廃止には本質的な効果はない。低所得者にしてみれば、消費税廃止分だけは使えるお金に余裕ができるが、所得の低い状態には変わりはない。

逆に、積極財政に期待する人もいる。政府支出の成長率と経済成長率との相関が強いから、政府支出を増やせば経済成長するという理屈だ。しかし、世界の統計分析では、その因果関係が逆になる。ワグナーの法則である。積極財政は短期的な景気の調整に使われるが、持続性のある経済成長につながるというエビデンス(証拠)はない。まして、慢性的な供給過剰を財政で埋めることは不可能だ。

さらに現代貨幣理論(MMT)に基づいて、もっと大胆な財政出動ができるという提言もある。政府の通貨発行には制約がないから、経済が伸びるまで需要を増やすべきだという需要ショック論だ。

正しく言うと、通貨発行に直接的な制約はないが、間接的な制約はある。需要と供給は必ず同等でなければならない。政府が増やした需要に対して、イノベーション(技術革新)がなければ、自動的に供給が増えはしない。内部留保が増えるだけのことだ。

結局、真の解決策はイノベーションに尽きる。新しい商品を開発して、新しい需要を発掘する。それを積極財政で支えるのだ。

そうした論理的思考ができないから、見当違いの「新しい資本主義」や根拠なき積極財政という絵空事ばかりが議論される。このままでは日本経済はますます縮小し、国民はさらに窮乏する。未来に、希望が見えないのである。