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高校教師のオスマン・アブデルジャバールさん(36)は祖国サウジアラビアでマイホームを持つなど夢にも思わなかった。
若い世代でマイホームブーム
サウジは今、マイホームと住宅ローンのブームに沸いている。石油頼みの経済と超保守的な社会を改革する取り組みの一環として、持ち家比率を高めようとする政府の対策が背景にある。
シンクタンクの米中東研究所で経済・エネルギー部門を率いるカレン・ヤング氏は「経済状況が厳しさを増す中で、住宅政策を優先するのは理にかなっている。国内では持ち家促進が中核的な課題になっている」と語る。
世界最大の石油輸出国であるサウジの住宅所有率はこの数十年間低迷してきた。2016年時点でも47%と英米の60%超を下回り、大半の国民は賃貸住宅に暮らすか、家族と同居していた。政府の住宅助成制度はあったが、希望者は申し込んでから10年、時には20年も待たされた。
持ち家比率70%目指す
イスラム法では利子のやりとりが忌避され、12年になってようやく住宅ローンが法的に認可された。政府が16年に策定した野心的な経済社会改革プラン「ビジョン2030」の一環として70%の持ち家比率目標を打ち出した後、比率は60%を超え英米とほぼ肩を並べた。住宅省の統計によると、10年前にほぼゼロだった住宅ローンは1240億ドル規模にまで成長し、融資契約は約87万件に達した。
住宅省は補助金付き住宅ローン「サカニ」プログラムを提供しているが、申請できるのは初めて家を買う家族世帯に限られる。申請は同省のアプリをダウンロードするか、各地にある同省の出先窓口で直接行う。政府が最大50万リヤル(約1700万円)分のローンの利息を負担し、不動産税も免除する。借り手は50万リヤルを上回った分の利息を支払う。
首都リヤドの北ではニュータウンが急速に姿を現しつつある。「ムルシア」と呼ぶプロジェクトでは、国営の不動産開発公社(NHC)がグレーとイエローで塗装した戸建て住宅を何列も建設中だ。1戸当たりの価格は56万~100万リヤル(約1900万~3500万円)。完成すれば広大な住宅地の中程を運河が通り、庭園や大型商店街を備えた町並みになる予定だ。
住宅バブルの懸念も
サウジのベテラン住宅金融業者によると、住宅ローンの伸びがあまりに高いため、外国人投資家はバブルがはじけることを懸念しているという。英不動産大手ナイト・フランクのリポートによると、住宅需要の増加を受けてリヤドの戸建て価格は18.6%、マンションは20%値上がりし、5年ぶりの大幅上昇となった。
住宅金融公社サウジ・リアルエステート・リファイナンス(SRC)のファブリス・スシニ最高経営責任者(CEO)は次のように述べた。
「住宅ローン市場の伸びは驚異的だ。だが、主に外国人の投資家に具体的な数字を話した途端、逃げ腰になる人もいる。4年間でこんなに急成長した市場は聞いたことがないからだ。だが、ここは一歩引いて、そもそも相当低い金額からスタートしていることを認識しなければならない」
マイホームを購入する夢を完全にあきらめていたサウジ国民は自分のものと呼べる不動産を持てるようになり、現時点では満足している。
退役軍人で今はホテルに勤めるアフメド・マジラシさんは車を運転中に電話を受け、西部ヤンブーで購入する不動産のローン申請が通ったと知らされた。「この私が家を持てるなんて、あり得ないと思っていた。すぐに車を停め、ひれ伏して神に感謝した」と当時を振り返った。

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