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衰退が招く危機(下) 脱少子化、強権も及ばず 「子ども不要」25%、縮む中国

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61277960R30C22A5MM8000/

 

1871年に誕生したドイツ帝国。急速な工業化で、成立から半世紀弱の間に人口を約6割多い6700万人に増やし、世界の大国に成長した。だが急速な台頭を警戒する英仏やロシアに包囲網を築かれ、資源封じ込めなどで孤立していく。追い詰められた独は第1次世界大戦に突入し、敗戦とともに崩壊した――。

 

「衰退に向かう大国は攻撃性を強める」。米ジョンズ・ホプキンス大のハル・ブランズ教授はドイツ帝国や戦前の日本を例に、そんな教訓を導く。同じ道をたどると懸念するのが中国だ。

人口14億人の市場で世界をひき付けてきた規模のメリットは徐々に失われる。2021年の出生数は1062万人と、1949年の建国以来最少となった。死亡者数を差し引いた人口の自然増加率は0.03%と増加はほぼ止まった。今年から公式統計でも人口減少に突入する公算が大きい。

急速な少子高齢化に焦る習近平(シー・ジンピン)指導部は21年、第3子の出産を認めた。ただ効果は乏しい。エコノミストの任沢平氏が5万人にアンケート調査したところ、9割が「3人目を望まない」と答えた。「子どもはいらない」との回答も25%に達した。

 

手薄な育児支援

 

子育てへの財政支援が弱いことが一因だ。国際労働機関(ILO)によると、中国の子ども向け社会保障支出は国内総生産(GDP)の0.2%で、世界平均の1.1%を大きく下回る。1月から3歳未満の子を育てる父母の個人所得税を軽減したが、直接給付はごく一部の都市に限られる。

子育てが重い負担になる社会は衰退を避けられない。「14億人いる総人口は100年後に4億人まで減る」(北京大の張俊妮副教授)

働き手の減少は成長に直接響く。人口学が専門の米ウィスコンシン大の易富賢研究員は、15~64歳の生産年齢人口は50年に7億5600万人となり、30年間で2億人減ると試算する。日本経済研究センターは中国の名目GDPが33年に米国を上回るものの、50年に再逆転を許すとはじく。65歳以上の人口は同じ期間に2倍近くに膨れ上がる。

 

社保費10→30%

 

GDPに対する医療・社会保障支出の割合は足元の10%から50年には30%まで高まるとの予測もある。社会保障費の膨張は成長に向けた投資ばかりか、共産党支配を支えてきた国防費や治安維持費の抑制も迫る。

少子化を放置すればいつか年金などへの不安は臨界点に達する。国内の危機に直面した指導者は外に敵を作り国民の不満をそらす――。歴史上、何度も見られた現象だ。

ブランズ氏は軍事的な対中包囲網が「20年代後半~30年代初頭にも実を結ぶ」として「(それ以前の)軍事バランスが有利なうちに習氏が動く選択肢が浮上する」と警告する。人口減への焦りが募れば、台湾の武力統一など強硬手段に出る時期は早まりかねない。

新型コロナウイルスのまん延や新疆ウイグル自治区での人権問題など、力ずくでことごとく封じてきた中国。だが、どんな強権をもってしても少子化の潮流は止められない。世界は縮小する覇権主義国家の暴発リスクと向き合うことになる。