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東京外国語大学、英語入試で「話す」導入 発信力、バランス良く評価 青山亨副学長に聞く

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61246810Q2A530C2CK8000/

 

――アンケートでどんなことが分かりましたか。

「話す力の試験を半数超の56%が好意的に受け止めていた。『ない方がよい』『あまり受けたいと思わなかった』は計31%。どんな気持ちで試験に臨んだかも聞いたが、自信を持って受験できた人が30%、多少もしくは大きな不安があった人が61%だった。初回であり今後慣れてくると思う」

――受験生はどのように備えをしたのでしょう。

「一番多いのが自習。自分で勉強したとの答えで25%だった。高校の外国語指導助手(ALT)の指導が20%、授業で伸ばしたという人が16%。家族や友達と練習した人も10%いた。英会話学校などを使ったのは6%と少なかった。今は英語で話す練習に使える動画サイトなどもある。受験生はそれぞれに工夫して試験に臨んでくれたと感じる」

――高校の英語教育に聞く・読む・話す・書くの4技能は浸透していますか。

「高校で英語の話す力を伸ばすための授業や支援が充実していたかを聞いた質問では、47%が充実していたと答えた。『とても』『どちらかといえば』の合計だ。『あまり』『全く』充実していなかったという回答も53%ある。既に指導が充実している高校と、まだ不十分な高校に二極化している印象もある」

「英語4技能のバランスのとれた指導は学習指導要領に盛り込まれており、それに沿った学習の到達度を測りたいというのが私たちの出発点だ。小学校の英語も教科化された。徐々に底上げされる形で高校の指導も充実してくると思う」

――充実度に差があると、高校によって不利になる生徒もいるのでは。

「態勢や対応の進み具合に違いはあると思う。ただ本学の入試の設問は必ず指導要領に沿っている。高校でできる指導をしてもらえば、きちんと評価しますというスタンスだ。高校の違いで不利になるという見方をする必要は全くない」

――機器の不具合は。

「聞こえない、吹き込めないといったマイク付きヘッドホンの不具合が試験会場の各教室であった。タブレットの不具合も数件。いずれも予備を使うことで解決した。今回の不具合は予想外に多いが、BCT-Sは国際日本学部が19年度から入試に先行導入して3年間の実績がある。検証してしっかりと対処したい」

――入試改革は教育改革と一体であるはず。教育をどう変えていきますか。

「BCT-SはCEFR(欧州言語共通参照枠)という、ヨーロッパで主に使われている語学力の物差しに基づいたテストだ。ある言語の習熟度を何ができるかで評価し、結果を段階で表示する」

「本学は28の言語を教えているが、その教育課程をCEFRに基づいたものにする取り組みを進めている。ただ、CEFRにはベトナム語やビルマ語の指導資料がない。それらを含む改訂版を英語教育で普及しているCEFR-Jという枠組みを基に開発した」

「新しい教育課程ではコミュニケーション力を最も重視している。本学の教育・研究は言語と地域研究が二本柱で、どちらも言語を通じて日本と他国の地域・文化を知る活動だ。教育も入試も、コミュニケーションのための外国語教育という一つの理念の中で考えている」

――入試において高校の指導要領の範囲内で話す力を問うのは妥当ですか。

「妥当であり、当然すべきことだ。話す力を問わない入試の方に偏りがある。デジタル技術の進歩で、初めて公平性を担保して4技能をバランス良く測れるようになった」

 

 

――コミュニケーションは場面や目的、互いの関係や文化などが作用して成り立ちます。入試という統制された環境で測るべきではないとの意見もあります。

「一般論だが、ある場所で一斉に時間を限って測定せざるをえないのは読む・書く・聞くも同じだ。それは話す力だけの問題ではなく、入試をどう考えるかに帰着するのではないか」

「大学の場合、入学後の教育を受け止める能力がある人に来てもらわないといけない。そのために入試がある。推薦入試や帰国生入試など多様なチャンスを用意する努力を積み重ねていることも知ってほしい」

――現時点でBCT-S導入の成果といえることは何でしょうか。

「最大の成果は新しい試みを多くの受験生に前向きにとらえてもらえたこと、そして大半の受験生は費用のかかる特別なことをせず、学校の授業や自習でしっかりと合格圏に入ってくれたことを確認できたのが最大の成果だ。話す力の試験が技術的に十分可能であることも分かった」

「英語による発信力をもつ学生が欲しいと考える他大学にも導入を検討してもらえるとありがたい。より多くの大学が参加することで大学や受験生が分担して負担するコストが軽くなり、参加大学がさらに増える好循環が期待できる」

「スピーキングテストの導入で、より教育方針にふさわしい学生が増えたかどうか。それは卒業後の活躍も含め、時間をかけて検証していかないといけない」